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NO.25

「心房細動の治療とカテーテルアブレーションの最前線」

(1/1)

北海道大学病院 循環器内科
診療講師 天満 太郎 氏


はじめに

 心房細動(AF)は、心臓の上部にある心房が不規則に震えることで、心拍が速く不規則になる不整脈の一種です。日本でも高齢化に伴い患者数が増加しており、現在約100万人以上が罹患していると推定されています。心房細動の主な症状は、動悸(ドキドキする感じ)、息切れ、胸の違和感、めまいやふらつきなどがあります。表1に示す通り、心房細動は放置すると、症状による生活の質(QOL)が低下するだけではなく、脳梗塞や認知症、心不全のリスク等のさまざまなリスクを高めるため、適切な治療が重要です。

心房細動治療方法

 心房細動の治療法としては、大きく分けて薬物療法とカテーテルアブレーションの二つがあります。(また、心房細動の合併症である血栓を予防するために抗凝固療法があります。こちらも薬物療法ではありますが、下記治療のいずれにおいても必要となります。)

●薬物療法
 心拍のリズムを整えるリズムコントロール薬と心拍数を調整するレートコントロール薬があります。薬物療法は比較的簡単に開始できますが、心房細動の根本的な治療にはなりません。

●カテーテルアブレーション療法
 カテーテルアブレーションは、カテーテル(細い管)を血管から心臓へ挿入し、異常な電気信号を発生させる部位を高周波エネルギーや冷凍エネルギーで焼灼・冷却する治療法です。

カテーテルアブレーション治療の方法

 心房細動の多くは、肺静脈の周囲で異常な電気信号が発生することが原因です。カテーテルアブレーションでは、この異常な電気信号を心房全体に伝わらないように遮断することで、心房細動を抑えます。このことを肺静脈隔離術と呼びます。この肺静脈隔離術は2種類のカテーテル:高周波イリゲーション(電極先端から生理食塩水で灌流し、血栓形成を予防する)カテーテルとバルーンカテーテルのいずれかを用いて行われます。

●高周波イリゲーションカテーテルアブレーション
 高周波イリゲーションカテーテルを用いた肺静脈隔離術には、4本の肺静脈を個別に1本ずつ電気生理学的に伝導部位を分節して隔離する術式、同側上下肺静脈前庭部を拡大して解剖学的に隔離する術式、肺静脈のみならず左房後壁も一括して隔離するBox隔離術のいずれかが主に行われています(図1)。

●バルーンカテーテルアブレーション
 バルーンカテーテルを用いた肺静脈隔離術には、冷凍エネルギーで心筋を冷却するクライオ(冷凍)バルーンアブレーション術、熱エネルギーで心筋を焼灼する高周波ホットバルーンアブレーション術、赤外線レーザーを用いて心筋を焼灼するレーザー照射内視鏡アブレーション術のいずれかが行われています(図2)。

カテーテルアブレーション治療の適応と非再発率

●適応
 カテーテルアブレーション治療は、図3に示すように有症候性発作性および持続性心房細動が一般的な適応(推奨クラスT:評価法・治療が有用、クラスIIa:データ、見解から有用、クラスIIb:有用性、クラスIII:評価法・治療が有用でなく、ときに有害となる可能性が証明されているか、あるいは有害との見解が広く一致している)となっています。

●近年の適応拡大
 早期の洞調律維持治療が心房細動患者予後に関連することやカテーテルアブレーションは心房細動の進行を抑制することに関して新たなエビデンスが蓄積されつつあり、直近の循環器学会から発行されているガイドライン(日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン、2024年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療)において、無症候性発作性再発性心房細動でCHA2DS2-VAScスコアが3点以上に対するカテーテルアブレーションが、推奨クラスIIa、エビデンスレベルBとなっています。

●非再発率
 成功率は治療対象の疾患によりますが、発作性心房細動では約70〜80%、持続性心房細動では約50〜60%で長期的なリズム制御が可能とされています。

カテーテルアブレーション後の注意点

●抗凝固療法
 カテーテルアブレーション後に抗凝固療法が必ず服用しなくてよくなるわけではありません。脳梗塞リスクが高い場合(高齢、高血圧、糖尿病、心不全や脳卒中の既往など)は、アブレーション後も抗凝固薬の継続が推奨されます。

●観察期間
 カテーテルアブレーション後、心臓内の焼灼による炎症が原因で、一時的に心房細動が再発することがあります。この期間を「ブランキング期間」と呼び、通常3ヶ月程度とされています。この間の再発は一過性である場合が多いとされています。したがって、通常カテーテルアブレーション後の再発とは術後3ヶ月以降に生じた心房細動になります。

●生活習慣の見直し
 カテーテルアブレーション後の生活習慣改善も重要となってきます。日本循環器学会発行の「2020年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン」においても、心房細動の併存疾患・生活習慣管理(心不全,心臓弁膜症,高血圧,糖尿病,閉塞性睡眠時呼吸障害,慢性腎臓病,肥満,喫煙)についての重要性に言及しております。また、近年では、アルコールとカフェインや適度な身体活動も重要であるとのエビデンスが構築されております。「カテーテルアブレーションで心房細動の治療が完結するわけではない」という認識が重要となってきます。

今後の展望

●新しいカテーテルアブレーション(パルスフィールドアブレーション)
 上述のように心房細動カテーテルアブレーションのエネルギーは、高周波エネルギー・冷凍エネルギー・赤外線レーザーエネルギーが用いられてましたが、最近新しいエネルギー(パルスフィールドアブレーション)が注目されております。

 パルスフィールドアブレーションは、ナノ秒からマイクロ秒単位の超短時間の高電圧パルスを心筋組織に照射し、細胞膜に不可逆的な孔(エレクトロポレーション)を形成することで細胞死を誘導する技術です。

 従来のエネルギーでは心房筋だけではなく、周辺臓器(肺静脈・食道・横隔神経など)へも影響することがあり、カテーテルアブレーションの合併症として問題視されていました。このパルスフィールドアブレーションは、心筋細胞に特異的に作用し、周囲の組織(肺静脈、食道、横隔神経など)への影響を最小限に抑えることができます(図4)。

 今後の臨床研究と技術発展により、パルスフィールドアブレーションが心房細動治療の新たな標準治療となる可能性が高まっています。

おわりに

 心房細動は、適切な治療と管理を行うことで、生活の質を大幅に向上させることが可能です。カテーテルアブレーションは、特に薬物療法ではコントロールが難しい患者にとって有効な選択肢となります。近年では、パルスフィールドアブレーション(PFA)をはじめとする新たな技術が登場し、より安全で効果的な治療が期待されています。しかし、治療後も再発を防ぐためには、生活習慣の見直しや定期的な診察が重要です。心房細動の治療はアブレーションで終わるものではなく、継続的な管理が必要であることを理解し、医師と相談しながら適切なケアを続けていくことが大切です。今後もさらなる技術革新と研究の進展により、心房細動治療がより進化し、多くの患者にとって負担の少ない治療法が確立されることが期待されます。


  
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