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NO.10 |
北海道大学循環器内科 富田 文
Q.β遮断薬は心不全にも効果があるのでしょうか
私は拡張型心筋症という病気で循環器内科に通院中です。現在、症状は安定していますが、心臓の働きは同年代の人の2分の1以下で、これまでに3回心不全で入院した経験があります。最近、主治医の先生から「β遮断薬を投与してみましょう。念のため入院してください」と言われました。高血圧や狭心症でβ遮断薬を使用している人は知っていますが、心不全に対しても効果があるのでしょうか。また、これらの人々は外来でβ遮断薬を使用していますが、私はダメなのでしょうか。(48歳、男性)
A.拡張型心筋症に有効、使用には細心の注意が必要です私たちの心臓は交感神経と副交感神経といういわゆる自律神経による調節を受けていますが、このうち交感神経は心臓の働きを促進させるように作用します。すなわち、運動や緊張した時などにみられる心拍数増加や血圧上昇は、交感神経活動が亢(こう)進した結果なのです。
交感神経活動はカテコラミンという物質を介して心臓に伝わりますが、そのためにはカテコラミンが心臓の特定部位(β受容体といいます)に結合する必要があります。β遮断薬はカテコラミンとβ受容体の結合を抑制して交感神経活動を心臓に伝わりにくくし、その結果心臓の働きを抑制します。そしてこの心抑制作用のため、かつては心不全に対するβ遮断薬の使用は絶対的禁忌と考えられていました。
しかし、約20年前に重症拡張型心筋症患者に対するβ遮断薬の有効性が報告されて以来、心不全におけるβ遮断薬療法が注目されるようになりました。最近ではいくつかの大規模臨床試験の結果も報告され、本治療法が心不全の長期予後も改善することが示されています。
心不全では低下した心機能を代償するために交感神経活動が亢進します。これは短期的には心機能を維持するために作用しますが、長期にわたると逆に心機能障害を増悪させてしまいます。心不全に対するβ遮断薬療法の有効性には、心不全で亢進した交感神経活動を抑制することが重要であると考えられています。
心不全の多くの症例でβ遮断薬の投与が可能ですが、中には心不全が悪化する場合がありますので、その使用に際しては細心の注意が必要です。原則的に、心不全に対するβ遮断薬療法は入院して開始します。そして、ごく少量、すなわち高血圧や狭心症に使用する5分の1〜10分の1の量から開始して、自覚症状、身体所見、胸部X線所見などを参考にしながら、1〜2週間ごとに漸増していきます。維持量は各症例により異なりますが、維持量に達した時点で外来治療とするのが昔通です。β遮断薬の心機能への効果は数カ月以上かけて徐々に出現します。
一方、同じ心不全でもその基礎疾患によりβ遮断薬の効果が異なることがわかっています。すなわち、ご質問の方のような拡張型心筋症に対する有用性は広く認められていますが、虚血性心疾患(心筋梗塞など)による心不全に対するβ遮断薬の有用性はまだ明らかになっていません。
以上、心不全に対するβ遮断薬療法について簡単に述べましたが、この治療法は長期間の慎重な経過観察を必要としますので、主治医の先生からよく説明を受け、治療の意義を十分理解することが重要です。

