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NO.9 |

北海道大学 医学部循環器内科
講師 甲谷 哲郎
Q.心筋梗塞の治療に、なぜ解熱・鎮痛薬を飲むのですか
私は3年前に心筋梗塞となり、現在も通院治療を受けております。薬は3種類もらっていますが、その中にバファリンが含まれていることに気づきました。薬の本をみてみると、バファリンは解熱・鎮痛薬と書いてありました。私は熱も頭痛もありませんが、なぜ毎日バファリンを飲む必要があるのでしょうか。説明をお願いします。
(65歳、男性)
A.少量の服用で血小板の凝集する力を弱め、血液の凝固を防ぎます心臓の筋肉(心筋)に酸素と栄養を運ぶのは、冠状動脈といわれる細い3本の動脈です。決して心臓の中を流れる血液ではありません。この血管の壁内にコレステロールがたまり動脈硬化が起こると、冠動脈の内腔が狭くなり、運動時に血液の供給が不足する「労作性狭心症」となります。さらに狭窄部血管壁内に貯まったコレステロール(プラークという)が破れると、そこの部位に血栓という血の塊が形成され、冠動脈は完全に閉塞してしまいます。すなわち、これが急性心筋梗塞の発症です。
我々の体は多少怪我をして出血しても自然に血がとまることからもわかるように、血液は一般的に固まりやすくできています。しかし、冠動脈に動脈硬化をもつ人では、血液は固まってほしくありません。
そこで狭心症や心筋梗塞の患者さんのなかには、血栓形成の予防として血液凝固を弱める薬を処方することがあります。
血栓ができるときには、まず血液成分のひとつである「血小板」が粘着凝集を起こすことから始まるので、「抗血小板薬」という薬を服用し、血小板の凝集する力を弱めることにより血液の凝固を防ぐのがひとつの方法です。バファリン(商品名)の成分はアスピリンであり、通常は熱さましや痛み止めとして便われますが、より少量を服用するとそのような解熱鎮痛作用ではなく、抗血小板薬としての作用が主となります。
その際、血小板凝集能抑制の目的では、成人であっても量の少ない小児用バファリンを1日に1〜2錠を服用します。これにより血栓形成の予防を期待します。なお、アスピリンの副作用で注意しなければならないのは、胃粘膜刺激作用です。上記の投与量では、そのような副作用の出現は多くはありませんが、すでに胃潰瘍を有する方は注意が必要となります。
バファリンの他に、血液を凝固させる因子のひとつであるビタミンKをブロックする薬である「ワーファリン」という抗凝固薬を服用する方法もあります。この薬については、以前に「すこやかハート」57号(1997年4月号)に解説があるのでこ参照ください。
これらの薬を使用すると、出血がやや止まりにくくなりますので、手術(抜歯も含めて)の際にはあらかじめ中止あるいは減量する必要がありますので、担当医師に申し出てください。自分の服用している薬については、その種類、目的について十分理解すべきです。医師には患者さんに十分説明する義務がありますので、遠慮せずに担当医に質問してください。

