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NO.9 |
「運動不足」
(2−2)
札幌市中央健康づくりセンター長
西島 宏隆
●いわゆる運動処方について/基礎体力はかなりな個人差
個人の基礎体力は、遺伝的にもまた運動習慣によっても、かなり異なるものです。バイクでの最大の有酸素能力を比較すると、軟弱な20代の若者が60代のセンターの常連に負けてしまうのは珍しくありません。フィットネス・クラブなどにある据え置き型バイクなどには通常、年齢、性別、運動習慣などを入力すると負荷の強さを機械が決めてくれるものですが、その通り10分やったら死にそうになるほどきつかった、などという人もいるくらい個人差があります。
自分の最大心拍数からその80%などと決める方法もあります。しかしこれでも自分の最大心拍数があらかじめ分かっている必要があります。計算でも平均的な値は出ますが、正確に最大心拍数を測るには機器が必要です。センターでは利用者の多くの人がバイクの最大運動負荷試験を受けるので、その人の最大心拍数、最大漕げる負荷(ワット数、最大酸素摂取量の推定値、持久力の推定値)、それを基にして最初の運動強度を決めています。
でも通常はここまでする必要はありません。ある強度で20〜30分やってみて、自覚的に中くらいからちょっときつめ程度を目安にすればよいでしよう。その強度が楽になったら、強度を増加させなければそれ以上のレベルにはなりません。すなわち維持ということになります。どこで満足するかという事になります。
●目標の運動量を初日から全部こなさない/意気込みは分かるが
これは考えてみれば当たり前なのですが、例えば10が最終的目標の時、初日から10やってしまってはやり過ぎです。心肺機能もついていけないので異常にハーハーするし、脚の筋肉や腱も鍛えられていないので痛くなります。若ければこのままがんばって続けていってもいいのかもしれませんが、長年の間に身体がなまってしまっている中年以降では、つらくて続ける気持ちが萎えてしまうし、第一、脚などが痛くて物理的に続けることができなくなるかもしれません。
もしジョギングなら、初めは1日1回5分でも良いのです。間をおいて週に2〜3回から始めて見ましょう。まず走れる脚を作りましょう。それから時間を増して、最後にスピードを増しましょう。運動不足の肥満の人などが張り切ってウォーキングを初めからガンガン始めたら、あっという間に膝を悪くして、何も運動ができなくなってしまう、などということがあります。
初めの意気込み通りに行動すると潰されてしまいます。何ヶ月もかけて目標値に到達し、それを維持するようにしましょう。
●副作用/お勧めしますメディカルチェック
運動の副作用としては、非常に稀な突然死がよく知られていますが、中年以降では虚血性心疾患によるものが大部分です。その症状のある人(例えば運動時の狭心痛)や危険因子(喫煙、高血圧、高脂血症、糖尿病)のある人、高齢などの場合は運動負荷心電図を含んだメディカルチェックを受けた方がよいでしょう。
運動中の突然死、心筋梗塞などは運動不足の人が急に運動を始めた時に一番起こりやすいことを良く憶えておきましよう。副作用の頻度が一番多いのは整形外科的障害です。
●整形的な障害のある人/安静第一ばかりでは悪循環にも
痛みなどがあるからといって安静に保つことを続けると、筋肉は衰え、関節も固くなり可動範囲がせばまり、ますます動けなくなります。急性期以外はある限界以内で動かすことが必要です。限界以内とはその運動中および後の痛み、腫脹などの程度によることになります。かかりつけの整形外科の先生に相談してから積極的にフィットネス・センターなどを利用しましょう。
●効果の確認/楽しみ・励み・反省
体力の増進を目的に運動する場合、その効果の確認には自覚症状以外ではそのための特別な検査(最大酸素摂取量またはその推定値、筋力、筋肉厚、柔軟性など)が必要です。これは通常病院では対応できないので健康づくりセンターなどを利用してください。効果が数値で出ると励みになるものです。また効果が出ていなければ、トレーニング法に問題があるのかもしれません。
市販されている、胸にベルトを巻き手首につけた時計のような表示で心拍数を計る機器は、非常に正確です。同じ強度の運動で脈拍が初めより下がってくれば有酸素運動の効果が出ていることになります。コレステロールや中性脂肪、血糖など血液の値を改善したいと思っている人はかかりつけの内科で採血してもらいましょう。2〜3カ月でたいてい効果が出るものであれば出ます。体重に関しては体重計で十分です。いわゆる体脂肪計は、機器ごとに値が大きく異なる場合があり、あまり参考になりません。
●薬の服用について/生活習慣の改善と矛盾はしない
運動などの生活習慣の改善でも生活習慣病に対する効果の少ない時や、どうしても運動などを実行できない時は、そのままの状態を続けて動脈硬化を進行させる危険をおかすよりも、薬を飲んでとにかく高血圧なら血圧を下げる方がよいと思われる場合が多いのです。生活習慣の改善に成功した後は薬が不要になったり、減量できるかもしれません。
とにかく薬だけは飲みたくないという人が結構多いのです。例えば高血圧ならば薬を飲まないでがんばることがいいのではなく、薬を服用してでも高血圧の合併症である脳卒中や心臓病を予防するのが目的なのです。そのためにより効果のある、より副作用の少ない薬が開発されているのです。薬を飲みながら生活習慣の改善につとめても何の矛盾もありません。
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