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NO.7 |
高血圧
(1−1)
札幌医科大学医学部第二内科
村上 英之
自覚症状がないだけに危険 / 放置は生命予後に重大な影響
高血圧とは?
心臓は、24時間休むことなくからだ中に血液を送りだすポンプとして働いています。この血液を送りだす時に、血管の壁に与える圧力を血圧といいます。「高血圧」とは、血圧が高い状態が続いてしまう病気のことです。高血圧が長く続くと、動脈に常に高い圧力が加わることになり、血管の内側に傷がつきます。すると、そこに血液中の諸成分や脂質成分が加わり、動脈硬化を起こしやすくなります。高血圧はひどい場合でなければ、目立った症状は出てきませんが、動脈硬化に伴う病変が進行してくると、心筋梗塞や脳卒中などの生命に関わる重大な病気を引き起こすことになります。
このように、心血管病の危険因子のうち高血圧は糖尿病、高脂血症などとともに、自覚症状のないままからだに致命的なダメージを引き起こすことから、アメリカでは「サイレントキラー(静かなる殺人者)」とも呼ばれています。
高血圧と心血管病の関連(疫学研究から)
高血圧が心血管病の主たる危険因子で、生命予後と密接な関係にあることは、これまでの多くの疫学研究より明らかにされています。当教室で行われている端野・壮瞥町の疫学研究の成績においても、心血管病による死亡率は血圧が高値であればあるほど高くなることが示され、高血圧を放置しておくことは生命予後に重大な影響を来たしうることが窺えます(図1)。
心臓や脳の働きがいったん壊れてしまうと、元に戻すことはできません。厚生労働省の21世紀国民健康づくり運動である「健康日本21」では、国民の収縮期血圧(「上」の血圧)が平均2mmHg低下すると、脳卒中の死亡者は約1万人減少し、さらに虚血性心疾患死の減少も加えると、循環器疾患全体では2万人の死亡が予防できると試算されています。このように、心血管病を予防するうえで、国民レベルでの高血圧対策は極めて重要であるとされています。
血圧はどの程度に保つのが良いのでしょうか?
血圧というものが認識されはじめた当初は、血圧は臓器を灌流するには必須のもので、血圧はむしろ高く保つことが大切であると考えられていました。しかし、世界的に様々な疫学的な研究が報告され、現在では血圧は低く保つことが重要である考え方(lower the better)に変わってきました。
日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン」では、高血圧の基準を、収縮期血圧を140mmHg、または拡張期血圧(「下」の血圧)を90mmHg以上と設定しています(図2)。この基準は、WHO(世界保健機関)とISH(国際高血圧学会)あるいはJNC(米国高血圧合同委員会)によって定められた国際的な基準と同じです。ただし、これはあくまで分類上の基準であり、治療の目標値となると年齢や他の病気の合併症の度合いにより異なって設定されます。例えば、糖尿病では高濃度の血糖が血管内側の細胞を傷つけたりすることによって、高血圧の負荷に加え、さらに動脈硬化を促進させてしまいます。よって、高血圧治療ガイドラインでは、若年・中年者および糖尿病合併の高血圧患者に対しての降圧目標値は130/85mmHg未満に設定しております。一方で、高齢者においては、動脈硬化による臓器障害が見られることが多く、目標値は140〜160mmHg以下/90mmHg未満と設定しております。
大半は生活習慣の改善が基本 薬物療法は第2段階
血圧が高い、と言われたら…
最近では、温泉やスポーツジムなどにおいても、自動血圧測定計を設置している光景が見られるようになりました。また、会社における検診や家庭自動血圧計の普及で、個人の血圧を測定できる機会が増えてきました。このような機会で少なくとも2回以上、血圧の高値を認めた場合は病院への受診をおすすめします。高血圧の診断は、安静坐位の状態で、病院の医師が測定した値で決められます。
高血圧には大きく分けて2種類あり、1つは原因のわかっているものと、原因が分からないものです。原因が分かっている高血圧を「2次性(症候性)高血圧」といい、腎臓や内分泌系の障害、心臓や血管の病気などが原因で起こります。この場合には、まず原因となっている病気の治療をする必要があります。原因の分からない高血圧は、「本態性高血圧」といわれ、日本人の高血圧の約95%以上を占めます。本態性高血圧の中でも、ことに悪性高血圧や重症高血圧と言われるような重症の高血圧では、すぐに薬による治療が必要で、なるべく早く血圧を下げなければ危険です。
しかし、高血圧の患者さんのうちの多くは、いわゆる軽症高血圧であり、すべての患者さんに降圧薬による治療を行うわけではありません。多くの患者さんは、薬物療法を行う前に、食生活の改善や運動療法を行い、その結果、効果が十分得られなかった場合、次ぎの段階として薬物療法が選択されます。
塩分の摂りすぎは大敵
適量はビール1本か日本酒1合
減量は計画的に
激しい運動は要注意
たばこはやめましょう
生活習慣の改善による血圧への影響
糖尿病などの危険因子を持たない場合の高血圧治療は、生活習慣の改善が基本です。日本人の食生活も欧米化に伴い、食塩摂取量は13g/日前後に増加したといわれています。高血圧には塩分の摂りすぎが大敵です。そのため、高血圧患者さんでは1日の塩分摂取量は7g以下が目標とされています。また、塩分摂取量を半減すると、3mmHgの血圧の低下が期待されます。
減塩だけでなく、菜食主義、カリウム、カルシウム、マグネシウムの摂取は血圧を下降させることが知られています。適度のアルコールは、緊張をほぐすうえでも効果的とされています。ビール1本、あるいは日本酒1合程度の飲酒は、5mmHgの血圧低下が期待され、心疾患、心筋梗塞に予防的に働きます。ただし、当然のことながら、飲み過ぎには要注意です。
肥満は動脈硬化を起こしやすい脂質代謝異常などを合併しやすく、肥満の程度が高度になるほど心血管病による死亡率も増加するといわれています。体重3Kgの低下は、2mmHgの血圧の低下につながるとされていますが、計画的な減量作戦に取り組まなければ、逆に大きなストレスが加わり血圧を上げることになりかねません。
運動療法は、心拍数110〜120回/分程度の軽めの運動を1時間程度、週2〜3回続けると効果的と言われています。毎日30分の早歩きは5〜10mmHgの血圧低下が期待されるといいますが、激しい運動はかえって血圧が上昇してしまうので要注意です。運動が難しい場合は、普段の通勤のなかで、バス停1つ前で降りてから歩いたり、駅でエスカレーターを使わずに階段で歩くなどの習慣をつけることも良いでしょう。
喫煙は血圧をあげ、心拍数を増加させ、さらに血管を傷つけ動脈硬化を進行させるように働きます。たばこ1箱吸うことで、脳卒中の死亡率の危険度または心筋梗塞の危険性はいずれも約3倍となっています。禁煙する意志を強くもち、禁煙グッズの使用や家族の協力も得てとにかくチャレンジすることが必要です。

