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NO.6 |
性格・気質
(1−1)
国立療養所 西札幌病院循環器医長
伊藤 一輔
A型行動は心臓発作を起こしやすい!
はじめに
ある種の性格・気質を持った人が、狭心症や心筋梗塞といわれる虚血性心疾患になりやすい傾向があることは、かなり昔から知られていました。
高血圧、高脂血症、たばこ、肥満、虚血性心疾患の遺伝歴などの伝統的危険因子が、虚血性心疾患患者の約半数にしか認められないという事実を踏まえて、虚血性心疾患における性格・気質など心理的因子の探究が行なわれました。
1959年、アメリカの心臓専門医であるフリードマンとローゼンマンが虚血性心疾患に陥りやすい行動パターン「A型行動」を発見しました。
A型行動はこうして見つかった!
思い当たりますか? *捉えどころのない敵意 *攻撃 *競争 *短気 *常に即効で時間が切迫している *目標を常に達成努力する *精力的、大声で早口、動きも速い 「どうしてここの診療所の椅子ばかり、前張りのすれ切れるのが早いのですか?」この職人の言葉がA型行動の発見の糸口になりました。
心臓専門医のフリードマンは、心臓病の患者さんたちの多くがイライラしながら待ち、そして椅子からすぐ立ち上がれるように、浅く腰掛けているのに気がつきました。そこで、同僚のローゼンマンとともに研究を重ね、虚血性心疾患の多くに独特の行動様式があることを見出して、それを「A型行動」と名付けました。
A型行動の特徴!
A型行動の重要な要素についてまとめてみますと以下のようになります。
*捉えどころのない敵意、
*攻撃、
*競争、
*常に即効で時間が切迫している、
*短気、
*目標を常に達成努力する、
*精力的で、大声で早口、動きも速い。その後の研究で、この中で最も決定的な要素は「敵意と怒り」であるといわれています。
A型行動は、このように非常に競争心が強く、攻撃的でせっかちであり、「A」はアグレッシブ(攻撃的)の頭文字のA。これと逆に、のんびりマイペース行動パターンをとる人をB型行動といいます。もちろん血液型とは、全く関係がありません。
日本人のA型行動の特徴!
行動は長い間に培われた日本独特の社会通念や文化による心理的状況、またはその人の人生観や価値観により異なります。アメリカのA型行動と多くは共通していますが、日本人のA型行動にはいくつかの特徴があげられています。
日本のA型行動は「仕事中毒」が多いのです。これは会社などへの連帯感や責任感から断わることが苦手で、自己犠牲をして仕事を抱え込むためです。
また、日本人は協調性を保つために「敵意や攻撃性」を表わすことが少なく、その感情を抑制するのが特徴といわれています。しかし、これらも危険なのです。
B型行動の2.2倍
A型行動の心臓病への影響を調べた研究では、アメリカのビジネスマン39歳から59歳の健康な男性3154人をA型行動群とB型行動の群で分け、その後8年半にわたって経過を調べました。
すると「図1」に示したように、心筋梗塞や狭心症の虚血性心疾患の発症率が、A型行動はB型行動に比して約2.2倍と高い発症でした。別の研究では、女性も同様の結果でした。
そして、アメリカでは1980年代になってA型行動が独立した虚血性心疾患の危険因子として認められました。日本人でもA型行動と心疾患発症の関連が、高い結果が示されています。
A型行動は危ない!
現代は大変なストレス社会です。特に精神的ストレスの不安、緊張、怒り(怒りたくても我慢することも)などが満ちています。A型行動の人は些細なストレスがかかっても、交感神経がすぐ活発化して、血圧や心拍数が上昇したり、冠動脈の内膜を傷つけたりして、動脈硬化を引き起こします。また、交感神経は内分泌系の副腎に作用して、コレステロールや中性脂肪を増加させたり、血液の血小板に働き血管のスパスムスや血小板凝集を引き起こします。剖検上では冠動脈の動脈硬化が、A型行動では実に6倍も多いと報告されています。
A型行動は、高血圧、高脂血症など他の危険因子からは独立した危険因子です。他の危険因子がないからと安心してはいけません。
また、突然死の約半数以上が虚血性心疾患によるものです。A型行動は、心臓にとってアクセルである交感神経の強い興奮を引き起こし暴走状態の原因になります。これにブレーキをかけるのが副交感神経であり、これが弱っていると暴走して突然死が起こりやすいといえます。A型行動の人は、この副交感神経の予備能力が低下しているので危険なのです。
A型行動の見分け方!
あなたがA型行動であるかをチェックしてみませんか。アメリカのA型行動と日本のA型行動は微妙に違うことが分かり、日本人向けに作られたA型行動スクーリニング判定表が「表1」です。12の質問項目からなり、配点は「いつもそうである」を選ぶと2点、「しばしばそうである」は1点、「そんなことはない」は0点、ただし質問5、6、9の回答は2倍に配点して、この合計点が、17点以上がA型行動と判定されます。
行動を変えましょう まずは家族と同僚の協力を
A型行動の修正で心臓発作が減少!
A型行動の虚血性心疾患患者に対する治療的な介入研究が行なわれました。
その結果、何も指導しない群、高血圧など従来の危険因子だけを指導した群、それにA型行動への治療を加えた群にわけて、その後の再発率を比較しました。A型行動への治療を加えた群が最も再発率が少ない結果でした。特に、男性のA型行動ではカウンセリングにより、敵意と切迫感を減らすことで再発率が半減したのです。
A型行動の修正の仕方!
私たちの行動パターンは、ある性格をもった人が、ある状況や環境のおかれたときにする一連の行動です。 A型行動が心臓に悪影響を与えているのは、(1)性格→(2)環境→(3)A型行動→最終的に(4)交感神経系が過度に反応しやすい、という連鎖が予想されます。
A型行動から虚血性心疾患や突然死への連鎖を断ち切るのは、この経路のどこかで切れば良い訳です。このうち「(1)性格を変える」は難しく、「(2)環境を変える」のも仕事を止める場合は限界があります。「(4)交感神経の反応性を変える」ためには薬が有効で、精神安定薬やβブロッカーが用いられますが、まだ心臓病でない人には使いません。
表2 修正行動 a よく笑う b ゆっくり話す c 時計を使わない d ゆっくり食べる e
自分の非を認める f 新しい記憶を蘇らせる g 三食をゆっくり楽しむ h 家族へのプレゼントをする i 拳を握ったり、貧乏ゆすりやしかめっ面をしない j 腹が立ったら間をおく k 相手の目をよく見る l 自分の時間を30分とる m 配偶者への愛情表現を怠らない n 追い越し車線に入らない o 銀行やスーパーでは順序良く並ぶ 残るは「(3)A型行動を変える」しかありません。「表1」にてA型行動の可能性がある人は、自分がその危険性を熟知し、そして、家族や同僚などの協力でその行動をチェックしてもらいながら変えていきます。「表2」は、金沢医大で用いられたA型行動の具体的15項目の修正行動です。その中から自分の当てはまる生活行動を気付かせ、実現可能な項目を選んで実行を継続してもらうわけです。
また、怒りたい時や怒れない時に、その気持ちを聞いてもらえる人を持つことも大切です。そして、時には、徹底してダラダラする時をつくり、自分の時間を持ちたいものです。
最後に
日本におけるA型行動の人は、責任感が強く仕事熱心な優秀なビジネスマンが多く、日本社会を支えてきました。しかし、仕事中心主義のみから、自分と家庭のための時間もとりいれた生活に変えることを心掛けて、黙々働く心臓をいたわり、1度の人生を楽しんで下さい。

