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NO.4 |
タバコ
(1−1)
旭川医科大学・内科学第一講座 長谷部 直幸
快適感とハイリスクと/心筋梗塞・脳卒中・閉塞性動脈硬化
隣の人の動脈硬化に責任をとれますか?
麻薬や覚醒剤と同じ性質/あなただけではありません/周囲の人々の健康にも影響
「タバコはやめましょう」−3月23日の循環器疾患無料相談コーナーで *タバコに優しい国
日本人は最もタバコを吸う国民です。そして、最も喫煙者に優しい国民です。喫煙率は年々減ってはいますが、現在でも男性の2人にひとりは喫煙者です。これは先進諸国の中では断然トップです。女性は10人に1〜2人と少ないものの、20〜30代女性の喫煙率はここ10年で倍増しています。
喫煙者の3分の2は止めたいと思っています。なのに止められないのは、タバコがまさに麻薬や覚醒剤と同じ性質をもっているからです。
日本では年間95,000人がタバコに関連した疾患のために死亡しています。タバコが健康を損なうことは、誰もが知っています。しかも、本人のみならず周囲の人々の健康も損ないます(受動喫煙)。
でも、人間関係にヒビが入ることを好まない日本人は、隣の喫煙者に「禁煙してください!」とは言えません。こういう場面では「喫煙は個人の自由」だからと、妙に物わかりが良くなるのが日本人です。
400年前、ヨーロッパにタバコが広がり始めた頃、英国王のジェームズ1世は「目に悪く、脳に有害で、肺に危険な習慣。悪臭を放つ黒煙は底なしの穴からの恐ろしい地獄の煙に似ている」とタバコを排除しようとしました。
タバコによる健康被害の問題は、単に個人の嗜好の問題ではなく、全国民あるいは全地球的な問題なのです。
血流は半分に/*タバコ一服の心・血管への作用
タバコを吸うと、交感神経が緊張します。カテコールアミンという物質がたくさん動員されますので、血管は収縮し、血圧は上昇して、脈拍は増加します。これらは、タバコに含まれるニコチンの働きによるものです。
実は、タバコを吸った時のこの“交感神経が少し緊張した状態”というのが、眠気がとれて頭がハッキリした感じにつながり、快適な気分を与えてくれるのです。まさに「寝起きの一服」はおいしいのです。
快適感が得られるものを遠ざけることは、なかなか困難です。すなわち、禁煙は難しいわけです。しかし、このような交感神経の緊張した状態は、結果的に心臓や血管に好ましくない多くの作用をもたらします。
タバコを吸うと、手足の指先への血管は収縮して血流は半分に減ります。血のめぐりが悪くなっているのです。これが慢性的に続けばどうなるかは、説明するまでもないことです。
危険率は8倍以上も/*心臓や血管への慢性的な影響
タバコは心筋梗塞になる危険率を2倍以上に高めます。高血圧や高コレステロール血症が加わると、その危険率は8倍以上です。
タバコによって、心臓に栄養を送る冠動脈という血管のしなやかさが失われます。血管の中にニキビのような出っ張りを作り、これが破裂して血管を閉塞すると、先に血が流れないために、心臓の筋肉が死んでしまう状態(これが心筋梗塞です)が起き易くなります。また、タバコは血を固まり易くします(血小板凝集能の亢進)ので、ますます血管の閉塞が起き易くなります。
これらの危険性は、タバコの本数が増加するほど高まることが知られています。
冠攣縮(スパズム)と呼ばれ、一見狭い所の無いような冠動脈が、ある時、ギュ〜ッと縮んで閉塞してしまう現象は、欧米人より日本人に多いのですが、これが、まさにタバコによって誘発されます。全身の動脈硬化が進みますので、脳卒中の危険性も高まりますし、閉塞性動脈硬化症やバージャー病など、手足の切断が必要になるほどの、四肢の血行障害をもたらす病気も、タバコによって起きると言ってよいのです。
さらに重要なのは、受動喫煙のリスクです。職場でも家庭でも、受動喫煙は心疾患による死亡を30%も増加させるのです。
実は…/*禁煙のすすめ
私は1日60本のヘビースモーカーでした。ですから、禁煙の難しさはよく分かります。実際、幾度もの挫折の後に禁煙に成功しました。止めてみると、喫煙者の傍若無人さがよく分かります。煙の迷惑を考えない。灰が落ちても気にならない。
百歩譲っても健康に良いはずのないタバコは、是が非でも止めるべきです。発癌のリスクと同じで、タバコを止めれば、心筋梗塞のリスクは非喫煙者と同じレベルに低下します。
「タバコを吸うなら、隣の人の動脈硬化に責任をとって下さい」と言われる時代が来ています。私達はこの地球上からタバコによる健康被害を根絶しなければならないのです。

