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タバコ
小樽市保健所 秋野恵美子 意志の問題でありません、ニコチンのせいです
タバコがいかに悪いものであるか…、挙げればたくさんあります。狭心症・脳梗塞・肺がん・喉頭がん・胃がん・その他全てのがん・慢性気管支炎・肺気腫・喘息・くも膜下出血・動脈硬化…。
悪いはずです。たばこの煙には、4,000種類の化学成分が含まれ、有害物質は200種類以上、そのうち40種類以上が発がん物質なのですから。その中には、シアン化水素やダイオキシンも含まれます。
発がん物質とは、「ガンを発症することが確かめられた物質」なのですから、これを毎日、何年間も吸引していたら、がんになるのもうなずけます。 心筋梗塞や脳梗塞にしてもそうで、心筋梗塞で入院してくる患者さんが喫煙者だった、と聞くと「やっぱりそうだったか」と妙に納得してしまいます。でも、タバコを吸っていてもがんにならない人もいます。その反対に、タバコを吸っていないのにがんになる人もいます。喫煙者のなかには、こういう事実を挙げて、「だからタバコを吸っていたっていいではないか」と反論する人もいます。確かに、タバコを吸っていてもがんにならない人はいるでしょう。私たちの身体には、外から入ってくる有害な因子に対する防衛機構もたくさん用意されているのですから。
だからといって、身体に悪いと分かっているものを自ら吸い続けるとは、一体これはどういうわけでしょう?「タバコをやめられないのは、意志が弱いから」と多くの人々が言います。実はそうではないのです。その人の意志の問題ではないのです。「ニコチンのせい」なのです。ニコチンのせいでタバコがやめられない、ということを「ニコチン依存」といいます。「依存」とは「やめられない」ということなのです。
さて、ニコチン依存にはニコチンで、と今や禁煙にはニコチン製剤を利用する時代です。「禁煙!」などと大きく書いて鉢巻しめて向ったのは昔の話になりました。小樽市保健所でも、平成15年?月から禁煙支援相談を開始し、そのなかで"ニコチンパッチ(薬品名ニコチネルTTS)"というニコチン製剤を処方しています。保健所でニコチンパッチの処方をしている所は少ないのですが、そのひとつです。
ニコチン製剤にはニコチンパッチのほかにニコチンガムがあります。
ニコチンパッチは、ニコチンを塗りつけた貼り薬です。これを皮膚の上に貼ります。ニコチンは皮膚から吸収されて血液の中に入り、常にニコチンが身体に供給されるのです。えっ?身体に悪いはずのニコチンを皮膚から供給?そんなことをしていいのでしょうか?…いいのです。考えてもみて下さい。今まではニコチンを含めて4,000種類もの化学物質を毎日吸入していたのです。ニコチンパッチを使うということは、4,000のうちの3,999を除去してニコチンだけにする、ということなのですから。
さて、タバコを吸うというニコチン摂取方法と、ニコチンパッチとでは何が違うか、です。タバコを吸うと、血液中のニコチン濃度が上昇します。そして、あの「至福感」がもたらされるわけですが、しばらくすると、またタバコを吸いたくなってきます。この「タバコを吸いたい」という気持ちは、ニコチンの血中濃度が下がってイライラしてくる時に生じます。喫煙者をよく観察すると、几帳面に一定の時間がくると喫煙していることがわかります。「タバコを吸いたい」の中でも特に、"朝の目覚め時"には、何はなくともまず一本、ということが多いと思います。それは当然です。なんといっても、タバコを吸わずに過ごした長い長い睡眠時間(謂わば、毎日実施している禁煙タイム)が明けたのですからニコチン切れの最たるものです。このように、タバコを吸うということは、ニコチン濃度が上がったり下がったりしていたのですが、ニコチンパッチを貼ると常にニコチン濃度が一定で、下がる(切れる)ことがないので、「タバコを吸いたい」「イライラする」ということがぐーんと楽になります(ただし、タバコを吸ったあとの「あの感じ」もないので、物足りないかもしれませんが)。
ニコチンガム…、これは、よく「ガムだから、ずーっと噛み続けるもの」と誤解されているようです。ガムという名前に惑わされてしまうのですね。確かに、少し噛みます。それは、やわらかくするため。やわらかくなったら、頬の内側の粘膜に密着させるようにして置いておくのです。そうして、粘膜からニコチンが体内に絶えず吸収されるようにする、つまり、ニコチンパッチと同じ考えなのです。ただ、ガムの場合は、寝ている時には使えませんので、朝のイライラには効果を発揮できません。パッチのほうがその点は有効です。
パッチには、うっかりタバコが危険です!
ニコチンパッチを貼っている時に、絶対にしてはいけないことがあるのですがお分かりですか?あまりにも当たり前なことなのですが、「タバコを吸ってはだめ」なのです。だめ、というより危険です。どういうことか。パッチを貼っているので、既にニコチンが供給されています。そこへ、タバコが加わるのですから、ニコチン濃度が急上昇するのです!ご本人は「いつもの見慣れたたばこを吸うだけ」とふと思ってしまいますが、大変です。両切りピースのようなきついタバコを吸ったような具合になってしまいます。そのせいで心筋梗塞を起こしたりしたら、何のための禁煙だったか分からなくなります。ですから、ニコチンパッチ使用中は、「タバコをうっかり吸わないように、周囲からタバコをなくしておくこと」が必ず守らなければならない注意です。特に、お酒を飲む機会があるときは、酔う前に、周囲の人に、自分にはタバコを勧めないこと、また、もしも自分が吸いそうになったら止めてくれるように、と頼んでおくことが必要です。
自分へのご褒美忘れずに
さて、喫煙族にはとても朗報のニコチンパッチですが、これだけで、全てが解決、とはいきません。ニコチンパッチでは解決できない喫煙があります。それは、(1)習慣としての喫煙(2)自分へのご褒美としての喫煙(3)ストレス対策としての喫煙(4)間を持たすための喫煙です。
(1)習慣としての喫煙 食後の一服、コーヒーを飲んだときの一服などがあります。これは、別にニコチン濃度が下がっているので、タバコを吸うというのではありません。何十年も続けてきた「習慣」です。これがなくなるのですから、"あずましくない"ことになります。ニコチンパッチで禁煙開始のときは、こういった「習慣としてのタバコ」に代わる「新しい、今までやったことのない習慣」を用意する必要があります。たとえば、歯を磨くことにする、とか、水を飲むことにする、いや日本茶、ウーロン茶…、なんでもいいのです、とにかく、食後にはこれ、コーヒーのあとはこれ、と決めておいて取りかからないと、たちどころに失敗、ということになってしまいます。
(2)自分へのご褒美としての喫煙 例えば、仕事のあとの一服がそれです(似ていますが、「疲れたときの一服」は、ニコチンの覚醒作用を求めての行動ということになります)。この場合は、「水一杯」では、ちょっと不満が残るかもしれません。何か特別で、自分には嬉しいこと、を用意しておく必要があります。考えてみたら、"禁煙"という偉大なことをしようとしているのです。少しぐらいお金がかかってもいいではないですか。この際、遠慮せずに大いばりで「自分へのご褒美」を用意してください。自分専用のヘッドフォンを買うことにした方もいます。仕事のあとに好きな音楽を聴くために。恋人の写真を机の抽斗にしまっておいて、仕事から帰ってきたらそれを見ることに変えた人もいます。ふだん、買ったこともなかったけれど、自分専用にペットボトルの飲み物を買うことにした人…、様々にご褒美が用意されていきます。
(3)ストレス対策としての喫煙 今まで、ストレスがかかる度に、それを追い払ってくれたタバコ…、これがなくなるのですから、代りに何を使うのか?これを考えておかないと、たちまち、"うちとられます"。タバコ代りのストレス対策のヒントは「タバコを吸わない人達のストレス対策」にあります。みんな結構工夫しているものです。
(4)間をもたすための喫煙 これもまた、タバコを吸わない人々がどうしているかを観察するといいですね。「何か飲み物を飲む」「自分が話をし続ける」「席をはずす、何かする」…いろいろです。特に、アルコールを飲む席での間のもたせ方!アルコールばかりをぐいぐい飲む羽目にならないように、アルコール以外の飲み物も手元に置いておくことが必要になります。
…こんな大変な禁煙なんか、いやだなあ、とお思いですか?
まあ、そう言わずに、どんなものか、まずは試しに経験してみては如何でしょう?そのあとで、こういう禁煙情報に眼を通して、ご自分に必要な部分だけを取り上げればいいことです。そして、もうひとつ。禁煙は、「繰り返せば繰り返すほど上手になる」ものです。せっかく禁煙したのに再喫煙になった…ああぁ、・・・いえいえ、また禁煙すればいいだけのことです。気楽に、かつ気長に、まずはやってみましょう!
人には添うてみよ、馬には乗ってみよ、って言うではありませんか。