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糖尿病
札幌医科大学第二内科 中田 智明さん
(1−1)
1.日本人の糖尿病は増えている!
2.糖尿病は心臓血管病の最大の危険因子!体の中では、エネルギー源として重要なブドウ糖を適切に利用し、かつその血液内の濃度(血糖値)を一定範囲に保つ必要があります。そのために働くホルモンがインスリンです。食事などで血糖値が上昇すると、必要量のインスリンが膵臓から血管内に分泌されます。しかし、必要なインスリン量が分泌されない状態、十分作用せずに、血糖値が異常に高くなる状態(空腹時血糖で126mg/dL以上、随時血糖で200mg/dLが目安)を糖尿病、その一歩手前を耐糖能異常といいます。
日本人の平均寿命は1984年以来世界一の水準となりましたが、最近日本人の糖尿病は明らかに増加しています。厚生労働省による平成14年国民栄養調査では、「糖尿病が強く疑われる人」は全体の9.0%で、「糖尿病の可能性を否定できない人」は全体の10.6%で、推計人口から推計したところ、糖尿病と強く疑われる人は約740万人で、糖尿病の可能性を否定できない人を合わせると約1,620万人と言われています。
特に、「糖尿病が強く疑われる人」について、男性は60歳以上で、女性は60歳代で増加しています。また、「糖尿病の可能性を否定できない人」については、女性のほぼ全年齢層で増加傾向でした。これは、食事の洋式化、外食・ファストフードの影響、家電・交通機関などの進歩による運動量の減少、不規則な労働時間(早朝、深夜労働)などの影響が考えられます。
表1 糖尿病が原因となる疾患 脳 脳梗塞、脳出血、脳血管性痴呆 心 狭心症、心筋梗塞 眼 網膜症(眼底出血、白内障、失明) 腎 腎症(腎不全、人工透析) 四肢末梢血管 閉塞性動脈硬化症 神経 自律神経障害:
立ちくらみ、排尿困難、便秘、下痢、勃起不全、発汗障害等末梢神経障害:
しびれ、ひえ、異常知覚
表2 糖尿病の一般的な治療法 食事療法 1日の総カロリー(注1)で計算
(注1)総カロリー=標準体重×仕事別消費カロリー
標準体重=(身長(m)×身長(m))×22
仕事別消費カロリーとは?
事務職、主婦:25〜30kcal
中程度(製造・販売業、自営業)の労働: 30〜35kcal
重労働(農・漁業、建築業など):35kcal
規則正しい三度の食事(夕食は軽めに)
間食、偏食、夜食は避ける
適正体重の維持:BMI(注2)<25を目標に
(注2)BMI=[体重(Kg)÷(身長(m)×身長(m))]運動療法 週3回以上ないし、毎日できる運動を習慣にする
20分以上できる、一人でも楽しく、どこでもできる運動
食後1〜2時間後に行う
ウォーキングの目安は1日7000〜1万歩
ウオーミングアップとクールダウンも忘れずに
年齢からみた最大の70%レベルの心拍数(注3)をメドに
(注3)適正心拍数=[(220−年齢)×0.7]経口
血糖
降下薬(表3参照) インスリン
注射高血糖状態では、喉の渇き、水を多く飲む、尿量・尿の回数が多いなどの症状がでることがありますが、ほとんど自覚症状はありません。しかし、症状がないからといって何年も放置しておきますと重大な合併症を引き起こします。
糖尿病では全身が高血糖状態ですので、全身の血管が動脈硬化などで障害されるため多くの臓器に影響がでます(表1)。また、感染症にかかりやすい、手術リスクが高まるなどの不利な点もあります。
特に、重要なのは網膜症、腎症、心臓、脳などの血管病です。糖尿病は狭心症や心筋梗塞などの虚血性心臓病を引き起こす大きな原因の一つです。糖尿病があると、その後の生命予後は悪化し、一度心筋梗塞をおこした方と同じくらいの高いリスクになります。したがって、無症状でも十分な治療によって、生命を脅かす心血管病の予防が重要です。
3.生活習慣病としての糖尿病の予防と治療
成人以降に発症し、全身の動脈硬化を引き起こす糖尿病は代表的な生活習慣病です。膵臓の病気、ホルモンの病気も原因になりますが、多くは遺伝的要因に加えて、さきに述べた食事習慣、運動習慣が大きく影響して発症します。したがって、その予防や治療には、現在の自分の年齢、健康状態にあった食事、運動習慣などのライフスタイルの見なおしが重要です。
食事が基本で、適切な運動が相乗効果をもたらします(表2)。
年齢、1日の運動量、体格・体重、健康状態や合併する病気(心臓病、脳卒中、高脂血症、高血圧など)にあった、適切なカロリー(1日の総カロリーで計算)と塩分に注意しましょう。
アルコールは、それ自体カロリーがあるため血糖を上げます。また、しばしば過飲や過食の原因になるため適正量(標準的には、日本酒なら1合、ビールなら720mL、ワインならグラス2杯のいずれか)をまもることが大切です。運動では、無理なく、楽しく、毎日できる運動が適切です。慣れていない、あるいは過度な運動は逆効果です。適切なカロリー、運動量は一人一人異なります。主治医、看護師、栄養士とよく相談しましょう。
4.糖尿病の薬物治療とは?
現在経口糖尿病薬(医師が処方)は5種類あり、それぞれに特長があります(表3)。
薬の飲み方、強さ、持続時間、副作用などが異なり、個々の患者さんにあった使いわけ、使用量の選択、あるいは併用がなされます。これら薬剤は適切な使用が極めて重要で、糖尿病の状態によって調整されますので、医師の指示なしに、勝手にやめたり、増やしたりすることは厳禁です。調子が悪いとき、疑問があるときは必ず医師に相談してください。
経口糖尿病薬でも十分な血糖コントロールができない時はインスリン注射を用います。インスリンを一時的に使用して、状態が改善されれば経口糖尿病薬にもどることもありますが、多くは継続的なインスリン注射が必要になります。インスリン注射にも多くの種類があり、やはり個々の患者さんにあった使いわけ、使用量(単位)や打つ回数の選択がなされます。インスリン注射は経口糖尿病薬以上に厳格な使用が行われますので、副作用(低血糖)に注意しながら、血糖のチェックと医師の指示に従ったインスリン量の調整がとても大切です。