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高血圧―脳・心・腎合併症を防ぐためには?
旭川医科大学第一内科 平山 智也さん
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基本は日常生活の習慣是正/根気よく取り組みましょう
■はじめに
■高血圧とは食生活の欧米化や外食化、ファストフードの普及などに伴い、われわれの食塩・脂質摂取量は確実に増大しています。さらに、自家用車や公共輸送機関の普及した現代社会、特に冬の厳しい北海道では、容易に運動不足に陥りがちです。加えて、昨今の景気後退によるリストラや失業などによる精神的ストレスの増加など、我々の生活は、高血圧の危険に満ちているといえます。このような社会生活環境の中で、いかにして高血圧を防げばいいのでしょうか?
また、高血圧を発症してしまった場合には、いかにして脳・心・腎合併症を予防すればいいのでしょうか?この機会にご一緒に考えてみませんか?
■高血圧はサイレントキラー
図1 高血圧による腎臓合併症(腎硬化症)剖検例。腎の萎縮と辺縁の不整を認めます 血圧とは、血管の中を流れる血液が血管壁を押す力をいいます。心臓が収縮したときに、最もその圧力が高くなり、このときの血圧を収縮期血圧(最大血圧)といいます。
高血圧とは、年齢が65歳以上の場合には、収縮期血圧が140mmHg以上かまたは、拡張期血圧が90mmHg以上の場合をいいます。年齢が65歳未満では、高血圧の基準は若干厳しくなり、収縮期血圧が135mmHg以上かまたは、拡張期血圧が85mmHg以上が高血圧になります。
但し、血圧は常に変動していますので、平均して3回の血圧測定を行い、平均した値で評価しますので、たった1回の血圧値で高血圧と決め付けるのは危険です。また、測定する条件として、測定前約30分間は安静にしていること、タバコやコーヒーなどの嗜好品をさけること、暖かい部屋で、座位で測定することなどが守られているかどうかが、血圧測定の条件として、極めて重要です。
図2 高血圧患者における脳MRI所見。多数の小梗塞巣を認める(矢印) 高血圧は、一般に無症状です。よく、頭痛やめまい・肩こり・吐き気・動悸などが高血圧の症状と一般に考えられていますが、元来、高血圧は無症状であり、これらの症状があるときは、重症高血圧と考えられます。
重症高血圧では、脳・心・腎などに臓器障害を伴うことも少なくなく、脳では高血圧脳症や脳出血・脳梗塞といった脳血管障害をきたしやすくなり、これらは痴呆の原因にもなります。心臓では、心臓肥大や狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患をおこしやすいことが知られています。腎臓では、蛋白尿や腎機能障害・腎不全をきたし、透析療法を受けなければならなくなるなど、高血圧は働き盛りの人の健康を蝕む、いわゆるサイレントキラー(沈黙の殺し屋)といっても過言ではありません。
■治療は食事療法(減塩食)や運動療法などの非薬物療法(生活習慣の修正)が基本
高血圧だからといって、必ずしも、すぐお薬を飲まなければいけないわけではありません。わが国の食塩摂取量は年々増加する傾向にあり、国民一人あたり1日平均約12〜13グラムを摂取しています。高血圧の方は、1日6〜8グラム以内が理想的とされていますので、栄養士の方に指導を受けられて、食事療法(減塩食)を始める必要があります。肥満を伴う方では、適正体重の維持を、お酒が好きな方は、アルコール制限も必要です。
脂質摂取量の増加は、高血圧の発症と関連あるとされていますので、低脂肪に留意するとともに、野菜・果実などのカリウム、海藻・ナッツなどのマグネシウム、牛乳・小魚などのカルシウムなどを十分摂取することで、降圧効果が期待されます。但し、腎機能障害のある方は、カリウムが高くなり、心臓に負担をかけますので、逆にカリウム摂取を制限することが必要です。
歩行、ランニング、水泳などの有酸素運動は、降圧効果があることが知られていますので、担当医に血圧の重症度、心血管病や腎臓病などの有無を評価していただいた上で、適切な運動量を指示していただいてください。
■お薬は自己判断で中止しないで
生活習慣の是正を行なっても、適切な降圧が得られなかった場合に、お薬(降圧薬)を服用していただきます。降圧薬の種類も、さまざまですし、急に中止すると危険な薬剤もありますので、担当医の指示に従って服用すること、自己判断で中止しないこと、服用薬剤の特徴と副作用を知り、該当する症状が出現した際には、すみやかに担当医にご相談ください。
高血圧などの生活習慣病の治療は、日常生活習慣の是正が基本ですので、根気強く治療に取り組み、担当医や栄養士、看護師、保健師などにアドバイスしてもらう関係ができれば理想的です。
臓器保護効果を実証
■高血圧治療薬(降圧薬)
最近のトピックス
高血圧治療薬として、最新の薬剤として知られているアンジオテンシンU受容体拮抗薬(ARB)は、確実な降圧効果に加えて、大規模臨床試験の成績から糖尿病新規発症の抑制効果(糖尿病になりにくくする)、脳・心・腎保護効果が明らかになってきています。
その中でも、カンデサルタン(商品名ブロプレス)は、特に、アンジオテンシンUの働きをブロックする力が強く、確実な降圧効果を有しているのみならず、副作用が極めて少ないとされています。欧米でおこなわれた臨床試験によると、カンデサルタン(ブロプレス)は、糖尿病の新規発症を22%抑制、非致死性脳卒中の発症を28%抑制、脳卒中後の死亡率・血管イベントを47.5%抑制、心不全患者の総死亡を10%抑制、心房細動を19%減少、微量タンパク尿を24%減少させるなど、脳・心・腎の臓器保護効果が実証されています。
このような薬剤の登場により、高血圧の臓器合併症に対する治療は飛躍的に進歩することが期待されます。