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NO.6

下肢閉塞性動脈硬化症、といわれたら

旭川医科大学第1外科  東 信良さん


Q1.どんな病気ですか

 下肢を栄養している動脈が動脈硬化によって閉塞する病気という漢字のとおりで、下肢動脈の慢性動脈閉塞症です。下肢を栄養する動脈とは、腹部大動脈が骨盤で左右に分かれてソケイ部に至り、そこから膝の裏を通って3本に別れて足に至る経路を指します。そのいずれかの部位で動脈が慢性的にゆっくり細くなり、やがて詰まってしまう病気です。

Q2.動脈が詰まったら一刻も早く血を流さないといけないと聞きましたが?

 突然正常だった動脈が閉塞する急性動脈閉塞症の場合には、何の準備もないので、その動脈が栄養する臓器は死んでしまいます。下肢の場合は6 時間以内の血流再開が必要です。しかし、下肢閉塞性動脈硬化症は徐々に動脈が閉塞する慢性疾患ですので、本来細い動脈の枝が脇道(側副血行路)として発達し、本幹の閉塞に備えて準備をします。従って、下肢閉塞性動脈硬化症の場合は急性動脈閉塞症に比べると時間的余裕があり、通常、数週から数年の単位で進行します。

Q3.どんな症状が出るのでしょうか?また、どんな症状が出たら急がないといけないのでしょう?

表1.下肢閉塞性動脈硬化症の主症状とその重症度

重症度

症候

具体的な症状

I度

無症状

軽症で、まだ明らかな虚血症状を認めない状態。

II度

間歇性跛行

ある一定距離歩行すると下肢の筋肉の痛みが出現して歩けなくなり、数分休むと再び歩けるようになる状態。血流が充分でないために運動に見合う酸素を供給できなくて起こる症状。

III度

安静時疼痛

さらに虚血が進行して、歩かなくても(安静にしていても)痛みを感じる状態。

IV度

潰瘍・壊死

細胞が生きて行くための血流も供給できなくなり、足趾やくるぶしに潰瘍ができたり、黒くなって腐ってきている状態。

 下肢閉塞性動脈硬化症の症状は表1のように、病気の進行とともに重症度がI度からIV度へと向かって進行してゆきます。最も典型的な症状は間歇性跛行(II度)というものです。この段階はまだそれほど重症ではなく、急ぎません。しかし、安静時疼痛(III度)やさらにIV度の潰瘍や壊死の形成(図1)に進行してしまっている場合にはできるだけ早く専門科を受診することをお薦めいたします。

 なお、安静時痛は痛風や関節疾患、あるいは神経痛など他疾患でも起こりますので、その他の虚血症状(足部冷感・蒼白、間歇性跛行など)の合併の有無で虚血によるものかどうか判断してください。

Q4.下肢切断になることもあると伺いましたが?

 あまりに虚血が進行して足の広範囲の壊死を起こしたり、足の潰瘍や壊死巣からバイ菌が入って感染が広がってしまった場合には膝下や膝上での切断(大切断)を行わなければならない場合が確かにあります。しかし、それはごく一部の症例で、しかるべき治療を迅速に受けられればほとんどの虚血肢は大きな切断をせずに助けることができます。従って、III度以上の場合には放置せず、できるだけ早く専門科を受診してください。

 なお、糖尿病例や血液透析例では切断率が高いとされています。特に糖尿病で透析を受けられている患者様は、足に傷ができていないか、化膿していないか、常によく観察したり、フットケア外来に通って、異常を早期発見するよう心がけるようにすると良いでしょう。

Q5.タバコは止めるように言われましたが、なかなか覚悟できません。吸い続けるとどうなるでしょうか?

IV度の壊疽症例

図1:IV度の壊疽症例。糖尿病合併下肢閉塞性動脈硬化症で、第5趾が壊死し、周囲に感染を伴っている。第4、5趾は失ったが、バイパス手術により、足の大部分がたすかり、歩行可能となった。

 動脈硬化で動脈が閉塞するいわゆる生活習慣病であるわけですから、動脈硬化の原因となっている高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙、肥満が主なリスクファクターとなります。この5つのリスクファクターが2つあるいは3つと重なるとさらに動脈硬化の進行が早まるとされています。この5 つの中で、まず日常の自己努力で完全になおせるものはタバコです。タバコは本当に百害あって一理なしです。タバコは、呼吸器疾患や発ガン性は勿論、血管に対しても、血液を粘っこくしたり、血管を収縮させたり、あるいは側副血行路の発達を妨げたりして、とても悪い影響を及ぼします。

 さらに、下肢閉塞性動脈硬化症があるということは、下肢の動脈のみでなく、他の部位の動脈にも動脈硬化が及んでいると考えなくてはなりません。即ち、心筋梗塞や脳梗塞、腎不全などを近い将来起こす可能性がかなり高くなるわけです。従って、タバコを吸い続けると下肢のみでなく、そうした重大な臓器にも血流障害を招きます。是非お止めください。喫煙し続けた10年後の心筋梗塞・半身麻痺(脳梗塞)・下肢壊疽の姿を想像すればきっと止められます。

Q6.「下肢閉塞性動脈硬化症」と言われたら、どの科を受診して、どんな治療を受けるべきですか

 まっすぐ心臓血管外科を受診すべきです。近くに心臓血管外科医が居ない場合には、循環器内科をお薦めいたします。ただし、III度以上の重症例では薬物療法は有効ではないので、いたずらに長期にわたって薬物療法を続けることのないよう、まず、早い段階で血管外科医を紹介してもらってください。

Q7.治療法を教えてください

 治療法は間歇性跛行肢(II度)と重症虚血肢(III度ないしIV度)で大きく異なります。

1 )間歇性跛行肢の治療;生活習慣の改善や薬物療法、運動療法を行い、時間をかけて経過を見ます。禁煙は勿論、血糖や血圧、コレステロールの管理も重要です。それでも改善がなかったり、ご満足いただけなければカテーテルで治療したり、バイパス手術を行います(二者をまとめて血行再建術といいます)。血行再建術は若干リスクを伴いますが、動脈血流を完全に回復できるので、歩くことが仕事(あるいは趣味)の患者様には喜んでいただけます。

2 )重症虚血肢の治療;迅速にかつ確実に血流を回復しなければ大切断の危機を回避できませんので、急いで検査を行って、カテーテル治療やバイパス手術といった血行再建術にとりかかります。適切な血行再建術を受けると直ちに血流は劇的に改善し、やがて痛みや潰瘍が治ります。壊死した部分は切除しますが、足の大部分を助けることができます。非常に稀ですが、どうしても血行再建術が困難な場合には、何とか大切断を免れるために血管再生療法を行って効果があることがありますが、現段階では不確実ですので、何とかして血行再建術を受けられる施設を紹介してもらうのがよいでしょう。

 *さらに詳しいことをお知りになりたい場合には、下記のホームページに詳しく書かれておりますので御参照ください。
  (http://www.asahikawa-med-surgery.net/jp/home/index.html)


  
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