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むくみがある、といわれたら
北海道恵愛会・札幌南三条病院副院長 木島 敏明さん
食塩の摂取制限は予防・軽減に有効
Q.むくみとはどのような状態ですか?
A.むくみとは医学的には浮腫といわれるもので、顔面や上下肢などがはれる状態をいいます。指で押すと指圧痕が生じます。このような状態では、腹腔内や胸腔内にも液体が貯留していることがあり、腹水とか胸水といわれるものです。Q.むくみ(浮腫)はどの様なものなのですか?
A.ヒトの身体の液体成分を体液と呼びます。この体液は三つに区分され、血管内に存在する血漿、身体の組織の細胞と細胞の間に存在する組織間液(血漿と組織間液を細胞外液ともいう)、および細胞内にある細胞内液です。むくみは、この中の組織間液が増加したものです。Q.なぜ組織間液が増加するのですか?
A.細胞と細胞の間を間質といい、間質を満たしているのが組織間液です。間質には毛細血管がはりめぐらされており、これを通じて体液のやりとりが行われています。毛細血管の体液の増加あるいは内圧上昇による漏出の増加と、毛細血管内の浸透圧低下により血管内に組織間液を引き戻すことができないなどにより、間質に組織間液が増加します。Q.むくみ(浮腫)の出現する部位があるのでしょうか?
A.全身性浮腫と局所性浮腫があります。全身性浮腫は、基本的には全身性疾患に伴って全身に出現しますが、同じ疾患でも病態の違いによって臨床的な症状に違いがあることもあります。局所性浮腫は毛細血管の透過性亢進により血管内から間質への体液移行が促進され発生します。例えば、熱傷や炎症、虫刺されなどによる炎症に伴って生じます。また、悪性腫瘍などによるリンパ管の閉塞によりリンパ液が組織間液として貯留し浮腫を生じます。この場合には腫瘍がある部位より末梢側に生じます。Q.全身性浮腫を起こす疾患はどの様なものがありますか?
A.代表的な三つの疾患があります。第一はいろいろな心疾患による「うっ血性心不全」です。心疾患のため心臓機能低下が起こり、右心系の圧が上がり、その圧が毛細血管まで伝達されて内圧が上昇し、血管内から組織間液への移動が促進されます。また、心拍出量が減ってくると、腎臓では循環血液量が減ったと感知し、これを元に戻そうと、食塩とともに水分を貯留するように働きます。しかし、その貯留された食塩はすべて組織間液に移ってしまい浮腫となります。第二は肝硬変です。いろいろな機序が考えられておりますが、肝硬変になると肝臓に入り込む門脈という血管の圧が上昇し、腹水が生じてきます。腹水も浮腫のひとつの型です。また、有効循環血漿量の減少が推定され、腎臓において食塩の貯留をきたし、これを組織間液に移動させることにより浮腫が生じます。
第三は腎疾患によるものです。そのうちの一つはネフローゼ症候群です。ネフローゼ疾患では腎臓の糸球体における蛋白質の透過性亢進により、血中のアルブミン濃度低下が起こります。これにより毛細血管内の浸透圧が低下し、組織間液を毛細血管内に引っ張り込めなくなり、浮腫が生じます。また、有効循環血漿量の減少により、腎臓において食塩を貯留するが、血管内の浸透圧が下がっているので組織間液のほうに移ってしまい、ますます浮腫が増加することになります。二つ目は、腎不全ですが、腎臓の機能が全般的に落ちているので、食塩を普通に摂取すると、尿中に排泄する能力が減っているため、細胞外液量が増加してしまいます。これにより浮腫が生じ、同時に血圧の上昇や肺うっ血などの症状がでてきます。
表 浮腫をきたす疾患の分類 メカニズム 全身性 局所性 毛細血管の内圧上昇 心不全 血栓性静脈炎
肝硬変膠質浸透圧の低下 ネフローゼ症候群
肝硬変毛細血管の透過性亢進 熱傷
炎症 虫刺されリンパ管閉塞 悪性腫瘍
リンパ管炎
フィラリア症Q.むくみ(浮腫)の治療はあるのでしょうか?
A.基本的には、うっ血性心不全、肝硬変、ネフローゼ症候群など、いずれの場合でもその病態の原疾患を治療しない限り、このような浮腫を治すことはできません。すなわち、浮腫という状況は原疾患によってもたらされた有効な循環血漿量の減少に対して腎臓が生理的に反応していると考えられる病態ですので、原疾患が治らない限り浮腫を治すことは困難です。しかし、細胞外液量の増加を予防・軽減するために食塩の摂取制限は有効です。欧米では1日の食塩量を1.5〜2gにすることで浮腫をある程度管理することができるといわれていますが、わが国ではここまで制限すると食欲の低下を招くといわれ、現実的には1日3〜5g程度が望ましいとされています。また、水分は1日1リットルくらいに制限すると良いでしょう。薬物療法では、最も頻繁に使用されるのは利尿薬です。利尿薬により食塩を尿中に排泄することで浮腫を改善します。

