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第12回高血圧の遺伝・環境要因についての国際SHRシンポジウム
第42回高血圧関
連疾患モデル学会学術総会参加報告
北海道医療大学薬学部薬理学講座
町田 拓自さん
平成18年10月20日から2日間、京都大学医学部構内の芝蘭会館にて第12回高血圧の遺伝・環境要因についての国際SHRシンポジウムと第42回高血圧関連疾患モデル学会学術総会が同時開催されました。SHRとは成長とともに高血圧を発症する高血圧自然発症ラット(spontaneouslyhypertensive rats) の略で、1963年に京都大学で開発された病態モデル動物です。SHRは脳卒中易発症高血圧自然発症ラット(stroke-proneSHR;SHRSP)とともに、高血圧を始めとする循環器疾患に対して非常に優れた病態モデル動物であることから、現在では世界中の研究機関で広く用いられています。本シンポジウムもそれを反映して、北米、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアなどから多くの研究者が参加し、基礎研究から臨床研究まで幅広い研究成果の発表がありました。特にSHRもしくはSHRSPを循環器疾患のモデル動物としてだけではなく、今話題のメタボリックシンドロームのモデル動物への応用や改良、また注意欠損/多動性障害のモデル動物への応用など新たなモデル動物への発展などの発表も多く見られ、SHR研究の新たな方向性と拡張性を強く感じさせられました。
本学会において、筆者は高血圧発症直前のSHRSPの摘出胸部大動脈と培養血管平滑筋細胞において脂肪酸結合蛋白質(Fatty acid binding protein;FABP)のサブタイプの同定とその発現量を正常血圧の対照ラットであるウィスター京都ラット(Wistar Kyoto rats;WKY)と比較検討し、発表しました。FABPは、細胞外の脂肪酸の細胞内への取り込みと細胞内小器官への輸送に関与しており、脂肪酸の細胞内での利用に重要な役割を果たしています。実験に用いたSHRSPとWKYの摘出胸部大動脈と培養血管平滑筋細胞では、同じサブタイプのFABPの発現(心臓型FABP及び表皮型FABP)が認められました。またそれら発現量は、培養血管平滑筋細胞ではSHRSPとWKYにおいて差が認められませんでしたが、摘出胸部大動脈においてはSHRSPにおける発現量がWKYと比較して低下していました。従って、SHRSPの血管において、FABP発現の低下による脂肪酸利用能の低下が考えられました。さらに高血圧発症直前のSHRSPでこれらFABP発現の低下が認められたため、FABP発現低下の要因として、高血圧発症による二次的な作用である可能性は少なく、反対に、高血圧進展に関与している可能性が考えられました。筆者は、n-3系多価不飽和脂肪酸の一つであるドコサヘキサエン酸(docosahexaenoicacid;DHA)の血管細胞における薬理作用を研究テーマの一つにしており、本学会で発表した結果は、高血圧モデル動物におけるDHAの細胞内での利用能を検討するにあたっても一助になったと考えています。発表中は、幾人かの先生方から興味深い質問やご助言を頂き、これからの研究遂行にあたり大変貴重なものとなりました。
最後に学会参加に際して、助成を賜りました財団法人北海道心臓協会に心より厚く御礼申し上げます。