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NO.31 |
日本小児循環器学会総会・学術集会報告
北海道大学病院循環器外科・医員
杉木 宏司さん
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小児期の僧帽弁形成術の遠隔成績〜使用リングと成績の検討
【背景、目的】成人では人工弁輪(ring)を用いた僧帽弁形成術(MVP)が多く施行されている。その成績も術後の弁逆流の制御がされている症例では遠隔成績も安定しているが、小児期にringを用いたMVPを行う場合、partial ringでは遠隔期でも僧帽弁輪の成長は望めるが遠隔期における弁輪の変形による僧帽弁閉鎖不全(MR)の増悪の可能性があり、total ringを用いた場合、弁輪径が固定されることから成長につれ相対的に弁輪径が小さくなり僧帽弁狭窄(MS)の出現の可能性が考えられ、積極的に使用しにくいとされてきた。当科では、術後の逆流の制御を重視し、人工弁輪の使用を前提として小児僧帽弁手術を施行してきた。そこで、これまで当科で経験した6例のMR症例について使用したリング種類と遠隔期の成績を検討した。
【対象】1996年から2005年の間に当科で経験した、15歳以下のMR症例は6例、手術時の平均年齢は3〜15歳(中央値11歳)だった。MRの機転は2例がcleft由来で、残る4例中3例は僧帽弁前尖の、1例は僧帽弁後尖の逸脱によるものだった。術前心エコー検査(UCG)によるMRはmoderateが4例、severeは3例で、合併手術は1例で漏斗胸に対する胸骨吊り上げ術を、もう一例で巨大左心房に対して左心房縫縮術を施行した。人工弁輪は6例で用いられ、4例がtotal ring(Physio ring 2例 Duran ring 2例)、1例はDuran ringを加工して作ったpartial ringを、残る1例は、弁輪全周を縫縮した。
【結果】全例生存した。術後UCGでは、MRはI°3例、II°3例であり、術後3年以上の遠隔期評価を施行された5例では、1例で5.2年の経過の後II°に増悪していただけであった。臨床的に問題となるMS症例は認めなかった。
【考察】僧帽弁形成術に用いられる2種類のringのうち、total ringは先にあげたとおりに遠隔期での狭窄の出現の可能性があるものの、成人でも僧帽弁狭窄の出現は弁口面積が200mm2以下で見られる一方で最小サイズのringでも面積が274mm2であることからも、今回の6例については狭窄所見、症状は認められなかった。一方でPartial ringについては、一部分を固定することからそれ以外の部分の成長を見込めるもののそれに伴い弁がひきつれて逆流が増悪する可能性が考えられる。しかし、今回の検討では1例のみわずかに逆流が増加したものの、経過観察可能な程度であった。
【結語】小児期のMRの弁形成術では成長を見込む必要があるが、逆流の制御がされていれば、遠隔期での逆流と狭窄の増大の可能性は少ないものと考えられた。しかしながら、当科でこれまで経験してきた小児僧帽弁症例は6例であり症例数が少ないこと、手術時期が3〜15歳で全例10kg以上と比較的大きな症例に限定されていたことから、体格の小さい症例では再検討が必要であると考えている。
(注:第42回日本小児循環器学会総会・学術集会は平成18年7月13日〜15日、名古屋国際会議場で開催され、杉本氏の出席に対し北海道心臓協会は研究開発調査助成を行った)

