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第26回日本血栓止血学会に参加して
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北海道大学大学院 医学研究科循環病態内科学
今川 正吾さん
平成15年11月27日より3日間、東京都新宿区の京王プラザホテルを会場に、第26回日本血栓止血学会が開催されました。
この学会では「血栓」と「止血」をキーワードに、分子生物学など基礎医学の研究者、血液病、心臓病、血管疾患、脳卒中などの診療に携わる医師といった様々な分野からの参加者が互いに交流を深め、活発な討論が交わされる中で多くの新しい研究成果が発表されました。
正常な血管内では凝固(ぎょうこ;血を固める働き)と線溶(せんよう;血栓を溶かす働き)という、相反する仕組みがバランスよく働き、血液は固まることなく血管の中を流れています。傷口から血が出ると、血を固めて出血を止めようとする体の仕組みが止血です。本来、適切に血が固まることは出血から身を守るのに大切な働きです。しかし、高血圧、糖尿病、高脂血症や肥満などの患者さんでは凝固と線溶のバランスが乱れ、血管の中に血の塊、すなわち血栓ができやすくなります。これが血管に詰まると心筋梗塞や脳血栓を引き起こします。最近の研究で、凝固・線溶をつかさどる物質はただ血を固めたり血栓を溶かすだけではなく、動脈硬化症の発生や進行、血管新生(新しい血管が形成されること)などとも密接な関連があることが分ってきており、今回の学会でもこの話題が注目されていました。
血管を構成する細胞の増殖や移動を促して血管の形成などに作用するHGFという物質があります。血管が詰まってしまった組織にHGFの遺伝子を注入して新しい血管を造り出すという治療法が実際におこなわれています。私は心筋梗塞や狭心症といった虚血性心疾患の患者さんでは血液中のHGFが増えていることに注目し、HGFと心・血管病との関係を研究しています。これまでの実験で、ある培養細胞をHGFで刺激するとPAI-1という蛋白の産生が増えてくることが分りました。血液中のPAI-1は線溶の働きを弱めて血栓症を起こし易くすることが知られていますが、PAI-1はまたHGFによる血管新生などにおいても重要な役割を担っていることが予想されます。
会期中に迎えた33歳の誕生日の朝、私は全国の研究者が集まる会場で、HGFがPAI-1を増やすメカニズムについての研究を発表しました。発表後、何人かの先生方から興味深い質問や温かい助言を頂き、これらは研究を発展させるうえで大変貴重なものでした。この学会で得られた知見を今後の研究、診療活動に役立て、少しでも医学および医療の発展に貢献できればと思います。
最後に、このたび本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜りました財団法人北海道心臓協会に心より感謝申し上げます。
研究開発調査助成は道内在住の40歳以下の医療関係者が対象で、平成16年度の応募を受け付けています。詳細はホームページで、または事務局へお問い合わせください。