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第39回高血圧自然発症ラット(SHR)学会参加報告
(1−1)
ジェスミン サブリナさん
本年度の高血圧自然発症ラット(SHR)学会は例年より早く、6月27、28日に東京で開催され、私は両日とも参加しました。私は2年前より高血圧の研究に従事し、本学会には2度目の参加です。高血圧はまだまだ研究すべき課題が山積しており、非常に興味深い分野です。私は、SHR(高血圧自然発症ラット)とSHRSP(脳卒中易発症高血圧自然発症ラット)をモデルとして用い、高血圧における冠循環と脳循環の研究を行っており、昨年は本学会で梶原賞をいただきました。本年度も北海道大学神経薬理との共同研究2演題が採用されました。
第1題は口述発表で、注意欠陥/多動性障害の病態に関する研究です。注意欠陥/多動性障害とは、精神年齢に比して不適当な注意力障害、衝動性、多動性を示す行動障害で、世界的に非常に話題となっている疾患ですが、いまだにその病因は不明です。しかし、本症は男児に多いのでアンドロゲンの関与が指摘されており、また雄性SHRSPでは同様な行動異常が認められ、本症のモデルとなると考えられています。一方、前頭葉の血流低下がその病因のひとつであるとの仮説があります。そこで本研究では、雄性SHRSPを用い、去勢、ジヒドロテストステロン投与、テストステロン投与等の処置を行い、前頭葉の毛細血管密度、VEGFとその受容体、エストロゲン受容体、アンドロゲン受容体、アロマターゼ、内皮型一酸化窒素合成酵素等の変化を検索し、雄性WKY(Wister-Kyoto正常血圧ラット)のそれと比較検討しました。
その結果、雄性SHRSPは雄性WKYに比し、前頭葉の毛細血管密度、VEGFとその受容体および内皮型一酸化窒素合成酵素の発現、さらにエストロゲンα受容体とアロマターゼの発現が低下し、アンドロゲン受容体の発現が増加していました。去勢によってそれらはWKYと同レベルに改善したが、さらにジヒドロテストステロンを投与することにより元に戻りました。一方、去勢ラットにテストステロンを投与してもWKYと同様な発現に留まり、エストロゲンα受容体とアロマターゼの発現が増加していました。以上より、雄性SHRSPではアンドロゲン受容体の刺激亢進によりNOやVEGFを介した毛細血管新生が抑制され、それに起因する脳血流低下が注意欠陥/多動性障害に関与する可能性が示唆されました。一方、テストステロンはアロマターゼによりエストロゲン代謝されることから、エストロゲンの血流保持作用も示唆されました。
発表の後、フロアーから以下のような質問が寄せられました。まず、今回使用されたものより若いラットではどのような変化が認められるか、次にコネキシンの発現はどうかという点で、これらは現在検討中です。最後に去勢後のVEGF発現上昇は手術侵襲に起因するのでは、という質問がありました。これは、アンドロゲン受容体阻害薬の投与で追試できるのではと回答しました。
ポスターで発表した研究は、SHRSPの各週齢(6週、20週、40週)において、心臓におけるVEGFとその受容体、eNOS、Aktの発現、冠毛細血管網さらに心機能をWKYやSHRと比較検討したものです。本検討により、SHRSP心ではVEGFとその受容体、eNOS、Aktの発現が低下しており、その結果、高血圧に伴う心肥大に見合う冠毛細血管網の新生が阻害され、心機能低下が惹起されることが示唆されました。
本発表は座長付きポスター発表であり、5分間の発表の後、座長から毛細血管網の低下の根拠を指摘されました。その回答として、直接証明には培養細胞系における加圧条件下で血管新生が抑制されるか否かを検索する可能性などに言及しました。
本学会では米国から2名の招待講演者が、SHRとSHRSP開発の歴史と、高血圧研究における役割について講演を行いました。どちらも非常に勉強となる講演でした。本学会では、わが国で高血圧研究に従事している多数の著明な研究者と会い、議論を深めることができ、私にとって非常に良い経験となりました。最後に、私の本学会出席に御援助をいただいた北海道心臓協会に深謝致したく存じます。