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心電学会に参加して
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横井 久卓さん
2003年9月8−9日、「第20回日本心電学会学術集会」に参加して参りました。開催地は東京国際フォーラムで、今回は日本心臓病学会学術集会との合同開催でした。これらの学会は循環器病学を学ぶものにとっては日本循環器学会と同様に重要な学会の一つであります。
発表のテーマは「無症候性Brugada症候群に見られた心筋Naチャネルのダブル変異」でした。Brugada症候群とは心電図上右側胸部誘導(V1〜V3)で特徴的なST上昇を示し、命にかかわる不整脈(心室細動)から突然死を来す症候群で、1992年にBrugadaらによって報告されました。日本では「ぽっくり病」といわれているものがこれにあたると考えられています。健康な40歳代男性が夜間うなり声を上げてそのまま心停止をしてしまうというのが典型的な発症です。
Brugada症候群の原因として心筋Naチャネルの機能異常が1998年に報告されました。心筋Naチャネルとは心臓の筋肉にあるNaイオンを通す蛋白で心臓の電気の発生とその伝播に関与しています。心臓は電気が流れることにより、その収縮を開始することは周知のとおりですが、その電気の流れに関与する機能蛋白です。ですからその心筋Naチャネルに機能異常があれば不整脈が起こりえるということは容易に想像できると思います。
この特異的な心電図を持つ例は健常者のなかにも約0.1−0.7%見られることが日本の健康診断などの大規模な研究から分かってきました。これらを無症候性Brugada症候群と定義しています。無症候性Brugada症候群は有症候性(心肺停止からの生存例やめまい・失神を繰り返す症例)に較べて予後が良好と考えられていますが、なかには最初の心室細動発作でなくなるケースもあります。有症候性の場合、治療は植え込み型除細動器の植え込みです。しかしよって無症候性Brugada症候群の治療方針の決定(経過観察か植え込み型除細動器の植え込みか)は心電図を見ただけでは有症候性と無症候性とは全く区別が出来ないため非常に難しく、また突然死に関与している病態なのでリスクの評価(リスクが低いので経過観察でよいなどと決定すること)が重要であることはいうまでもありません。
リスクの評価方法は様々なものが提唱されていますが、まだ立していません。上記のとおりBrugada症候群に心筋Naチャネル病として考えられていることもあり、われわれは心筋Naチャネルの機能異常がリスクにつながるのではないかと考えました。今回無症候性Brugada症候群の患者に心筋Naチャネル遺伝子のスクリーニングを行い、一症例のダブル変異を見つけました。その症例は60歳男性で2つのミスセンス変異(1527番目のアミノ酸がリジンからアルギニンに、さらに1569番目のアミノ酸アラニンがプロリンに置換)を持っていました。さらにこの変異心筋チャネルの機能を解析したところ心筋Na電流の低下が証明されました(変異Naチャネルが必ずしもNa電流の低下を示すわけではありません)。有症候性Brugada症候群の心筋Naチャネルは「loss-of-function(機能低下)」を呈するといわれ、様々な理由で、心筋Na電流が低下していることが言われています。本症例における心筋Naチャネルの異常は有症候性のその異常と同様のものでありました。無症候性Brugada症候群においてその変異チャネル機能異常を証明できれば、無症候性であっても有症候性と同じくハイリスクと考えることができ、突然死を未然に防ぎえる(予防的植え込み型除細動器植込)可能性が示唆されました。
以上が今回の発表内容です。遺伝子異常からその蛋白機能異常を証明し病態解明につながる研究が盛んに行われています。今後ますますこの分野(プロテオミクス)は発展していくものと考えられます。