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第39回SHR学会総会に参加して
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上野 健一さん
この度、(財)北海道心臓協会の研究開発調査助成を受け、第39回高血圧自然発症ラット(SHR)学会総会(2003年6月27日、28日)に出席させていただきました。学会は、河村博教授(日本歯科大学内科学講座)の主催で、日本大学会館(東京)で開催されました。本学会は、高血圧自然発症ラット(spontaneously hypertensive rats; SHR)や脳卒中易発症高血圧自然発症ラット(stroke-prone spontaneously hypertensive rats; SHRSP)など、SHR系統種ラットを用いて、基礎研究から各疾患の病態生理、薬物療法、遺伝子治療などについて、最近の進歩と将来への展望を含めて討論する学会です。
今年のメインテーマは生活習慣病で、「生活習慣病のモデル動物としてのSHRの進展」というシンポジウムが組まれ、SHR研究の新たな方向性が示されました。Dr. Edward D. Frohlichにより招請講演「The SHR contributes to provide an excellent experimental model for essential hypertension over four decades」がなされました。また、「高血圧と血圧変動メカニズム」というシンポジウムから新しい話題が提供されました。一般演題は、30題の口頭発表、14題のポスター発表が行われ、学会を通して密度の濃い講演・活発な討議が行われました。
筆者は、これまでに高血圧発症前の幼若期におけるSHRSPを用いて、注意欠陥/多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder; AD/HD)のモデル動物としての有用性を追究して参りました。AD/HDは、幼児期から学齢期児童に認められる「集中できない子どもたち」、「落ち着きのない子どもたち」あるいは「我慢できない子どもたち」等と呼ばれる「不注意」、「多動性」および「衝動性」を中核症状とした軽度発達障害として認識される精神疾患であります。AD/HDは「学級崩壊」や「キレる」という要因にもあげられており、男児に多く発症するという性差が存在します。本学会において筆者は、AD/HDモデル、SHRSPの短期記憶障害における性差に関する研究として、SHRSPの短期記憶障害にアンドロゲンが障害的に、エストロゲンが保護的に働いている可能性を発表しました。
高血圧のモデル動物であるSHRやSHRSPが、なぜAD/HDのモデル動物なのかと疑問が生じることでしょう。高血圧関連遺伝子のみが引き継がれてSHRやSHRSPが誕生したわけではなく、多動に関連する遺伝子も高血圧関連遺伝子と一緒に引き継がれ、複合的にSHRが誕生した経緯があります。病態を反映し、ラットが「高血圧」や「脳卒中」と名付けられたため、これまでは「高血圧」、「脳卒中」といった研究が中心でありましたが、近年、多角的な方面からの研究が増えてきました。今回の学会では、高血圧関連遺伝子の同定と肥満遺伝子産物レプチン受容体遺伝子の導入による生活習慣病モデルとしてのコンジェニックラットの作製が大きな話題でした。今後、このような分子生物学的手法を発展させることにより、AD/HDモデルとしてのコンジェニックラット作製の可能性も視野に入れた研究の必要性を強く感じました。
世界に誇るドメスティックブランドSHRの研究も新しい時代に入り、本学会もこれから真の充実期を迎えようとしています。本学会が研究者のエネルギーを効果的に活性化し、SHR研究がさらに発展するよう微力ながら研究に精励していきたいと思っております。本学会ではディスカッションや懇親会を通じて、高名な研究者と親睦を深めることができ、今後の研究を展開させる動機を得る良い機会となりました。この度は、本当にありがとうございました。