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第25回日本高血圧学会総会報告
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北海道大学大学院医学研究科高次診断治療学専攻循環病態内科学
古本 智夫
第25回日本高血圧学会総会が東京大学腎臓・内分泌内科教授、藤田敏郎先生の会長の下「生命科学から生活習慣病の克服へ」をテーマに平成14年10月11日から13日に東京の日本都市センターを会場として開催されました。
高血圧の発症には、遺伝素因と環境要因が関与し、食事、運動、喫煙、飲酒等の生活習慣が発症の誘因となることから生活習慣病の一つと称され、現在わが国では3000万人以上の患者が存在しており、その治療や病態に関する研究は重要であります。また近年の生活様式の欧米化に伴い糖尿病や高脂血症を合併し、動脈硬化性疾患発症の危険の高い患者さんが増加しておりますが、高血圧を含めた動脈硬化の重要な危険因子となりうる病態をmetabolic syndromeとして総括的に考慮していくことが重要視されており、本学会においても多くの研究が発表されておりました。
私達も「日本人未治療初期高血圧では代償性血管壁構造変化が血管内皮機能を保持する」として研究の結果を報告させていただきましたので次にその内容を簡単にご紹介させていただきます。
【背景と方法】高血圧は動脈硬化の大きな危険因子であり、血管内皮障害がその始まりに関与しています。内皮の障害に引き続いて、血管平滑筋細胞の増殖、遊走、細胞外マトリックスの増加等により血管構造の変化が進行すると考えられています。超音波計測による上腕動脈flow mediated dilation(FMD)は血管内皮機能を反映する非侵襲的で有効な指標であり、高血圧患者では有意に低下していることが知られています。また日本人においてはFMDの低下に関して高血圧の関与が特に大きい可能性があることを私たちは現在までに報告してきております。しかし、血管壁の構造変化と血管内皮機能の関係については十分には明らかにされておりません。そこで今回私達は高血圧患者における血管壁変化と内皮機能について検討しました。
対象は未治療で多臓器への合併症を持たない高血圧患者(n=18、平均年齢56±14)と年齢を一致させた正常者(n=15、平均年齢49±12)であります。新たに開発した広帯域15MHzリニア電子走査型探触子をもちいて上腕動脈FMDと同血管のintima media thickness(IMT)を計測しました。また血中での内皮障害の指標の一つとして線溶系阻害因子plasminogen activator inhibitor(PAI)-1を計測しました。
【結果】従来の報告通りFMDは正常群に比し高血圧群で有意に低下していました(7.8±3.6% vs 3.5±1.5, p<0.01)。上腕動脈IMTも高血圧群で有意に増加していました(0.36±0.7mm vs 0.27±0.3, p<0.01)。血中のPAI-1値も活性値(13.6±11.9AU/ml vs 4.3±0.9)、抗原値(40.5±31.8 ng/ml vs 26.3±11.6)共に上昇していました。しかし、高血圧群のIMTと%FMDは正相関を示し(r=0.45, p=0.06)、IMTとPAI-1活性は逆相関を示し(r=-0.46, p=0.06)、高血圧群での血管壁肥厚が内皮機能障害を反映するものでは無いことを示唆していました。 そこで高血圧群のwall stress(WS)を計算すると、FMDとWSは有意な逆相関を示しました(r=-0.47, p<0.05)。さらにWSはPAI-1活性(r=-0.53, p<0.05)、抗原値(r=-0.60, p<0.01)とも有意な正相関を示していました。
【結論】本研究の結果より未治療の初期高血圧患者では上腕動脈FMDは低下し、IMTは肥厚する。しかし、IMTの肥厚は動脈硬化性変化や内皮機能障害を反映するのではなく、むしろWSを減らし、内皮機能を保持しようとする適応性の変化と考えられました。
本学会での知見を参考にし、今後もこの分野での研究を進めたいと考えております。
*北海道心臓協会は研究開発調査助成事業により、古本さんに旅費補助を行いました。