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第38回日本小児循環器学会参加記
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今年も小児循環器学会総会が7月10―12日、杏林大学医学部小児科阿波彰一先生を会長として開催されました。
小児科の循環器というと内科と同様に心筋症・不整脈といった分野もありますが、特徴的なのは先天性心疾患や川崎病などでしょう。特に前者は、出生児の約1%ほどが先天性心疾患を有しているという頻度の多さと、そのうちでも出生後すぐに診断をつけ、手術を要する疾患が少なくないという事情から我々にとって重要な分野です。
またこの学会の特徴として外科医・内科医の垣根が低いことがありますが、これも先天性心疾患における両者の協力の必要性が十分認識されているからといえるでしょう。会長である阿波先生の専門は"心機能"で、"病態生理"という会長要望演題のセッションが二つ、また"小児の心不全"というシンポジウムが企画され、活発な議論が展開されました。また最近の流行であるgrowing up congenital heart disease(GUCH:グッチとよんでいますが、鞄屋さんとは関係ありません)の分野のパネルディスカッションや一般演題では多数の参加者が議論をかわしておりました。
今学会で、私が報告した心室中隔欠損・心房中隔欠損・動脈管開存などの疾患は比較的頻度の高い先天性心疾患であります。いずれも欠損孔を通して左心系から右心系に血液が短絡する疾患で、その結果、肺に負担がかかってきます。大きな欠損では、小児期に症状が出現し治療の対象となります。心室中隔欠損では、かなりの数の児が1歳前に手術を施行されていますが、手術成績は良好です。また中ぐらいの欠損では小児期に症状がでなくとも、ある程度以上の短絡があると肺血管がダメージを受け、肺血管の閉塞性病変という手術でも直すことのできない取り返しのつかない状態となります。そこで、将来的に肺血管病変がおこりうる程度の短絡の場合には無症状でも小児期に手術を施行します。そして肺血管病変が起こりえない程度の小さな欠損に関しては手術せず、感染性心内膜炎の予防などをしながら経過を見ていきます。
さて、私の報告は手術不要な程度の小さな心室中隔欠損や心房中隔欠損では本当に心臓に負担がかかっていないのだろうかというものでした。こういった患者さんで、最近心不全のマーカーとして注目されている心房性ナトリウム利尿ペプチドや脳性ナトリウム利尿ペプチドといった心臓に負担がかかったときに分泌されているホルモンを測定してみました。すると、当科で心臓カテーテル検査をおこなって、手術不要と判断された患者さんのうちすくなくともどちらか一方のホルモンが上昇していた方は33%にも達して ィりました。
こういった疾患の患者さん達も当然年をとり、将来心筋梗塞・狭心症といった疾患を気にしなければならなくなります。そのような時にこの程度の心臓への負荷がどれぐらい悪影響を及ぼしてくるのかは重要な問題で、さらなる調査・研究が必要といえましょう。