NO.9 |
第13 回日本循環器病予防セミナーに参加して
(1−1)
札幌医大第二内科 小原 史生
私は、7月下旬に岩手県安比高原で開かれた第13回日本循環器病予防セミナー(日本循環器病管理研究協議会主催、日本心臓財団後援)に参加した。
臨床、疫学各分野の第一人者である先生方を講師とするセミナーに参加できたことは大変有意義だった。
私は臨床医学に従事する傍ら疫学研究に携わっており、根拠に基づく医療が医学の中でいかに重要なことであるかを痛感できたからだ。
全国から集まった若手医師
生まれも育ちも北海道の私にとって7月下旬の岩手は、暑さで学問どころではないかも知れないと思いつつ24日花巻空港に到着した。
想像通りの暑さで、同日夕の開講式にたどり着いたときは全身汗まみれでへとへとだった。
翌日から講義は始まったが、予想に反してリラックスした雰囲気のスタートであった。受講生は、北は北海道、南は沖縄と、まさに全国から集まった若手医師たち。
このセミナーは約1週間、講師、受講生の隔てなく寝食を共にして過ごすのが慣例なので、やっていけるか不安であった。
「根拠に基づく医療」 テーマに
今回のテーマはEvidence Based Medicine(EBM=根拠に基づく医療)であったが、日本の臨床医学、予防医学の第一線で活躍されている先生方の熱心な講義を聞くとEBMがいかに重要であり、根拠を得ることがいかに困難なことであるかを実感した。
実際の臨床現場において診療を行っていく上でさまざまな治療方法のなかからどれを選択すべきかを決める際に、これまでの医学研究の成果からその治療の根拠を見いだしていく努力がいかに重要なことであるかを、私はこのセミナーで学んだ。
もちろん、その因果関係が既知の自然科学で合理的に説明できれば、それに越したことはない。しかし、自然科学的に説得性に欠けるからといって因果関係を無視することはできない。
「人々の健康保持」 こそ最終目標
最近、分子生物学をはじめとして医学は目覚ましく進歩し、高度医療の発展に寄与しつつある。
しかし、その一方で医学はその本来の目的である「ヒトの健康、幸福の追求」からともすればはずれ、生命科学の深奥にのみ関心が寄せられがちな傾向を危ぶむ声も少なくない。
「人々の健康保持」を最終目標とする医療の精神こそ、両者の間隙を埋めることができるものと思う。
重要な循環器疾患対策
厚生省死因統計によれば、1981年以降、日本の死因の第1位は悪性腫瘍である。
死因の第2位、第3位は心疾患と脳卒中である。高齢化社会の到来を考えれば今後、日本の医療において脳卒中、心疾患といった循環器疾患の対策が、ますます重要になることは疑いの余地がない。
近年、循環器領域においても、高度医療技術の発達は目覚ましく、かつては救命できなかった重篤な疾病も急性期をしのぎ、社会復帰させることも可能になってきた。
しかし、多くの患者はたとえ救命され得たとしても後遺障害を残したり、何らかの制約を負っているのが現状である。
「根拠に基づく医療」と一体となった治療こそ、これからの医療の課題なのではないかと思う。最後にセミナー参加に当たり、助成をしていただきました北海道心臓協会に対し心より厚く御礼申し上げます。
※北海道心臓協会は「研究開発調査助成事業」により小原氏に旅費補助を行いました。