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NO.5

第71回アメリカ心臓学会に参加して
(1−1)

旭川医大第一内科 名取俊介

 第71回アメリカ心臓学会(AHA)が 98年11月8日から11日の四日間に渡りテキサス州ダラスで開催された。この会議はいまや参加者数が4万人を超え、心臓病と脳卒中に対するたたかいに貢献する科学者、医療従事者たちが集う世界最大の学会として知られている。参加国もアメリカ合衆国以外に54カ国を数え文字通りインターナショナルな学会である。

 総演題数は4500にもなるが、応募数は1万2千を超えており採択率は35%前後と厳しい学会でもある。その約半数はアメリカ以外の国からの発表となった。そして今回幸運にも演題が採択され、最初で最後になるかもしれないAHAでの発表の機会に恵まれた。英語の良くできない私ではあるが、五感を通して見聞した学会の様子や内容をご紹介したいと思う。

写真1
ポスター展示前の名取俊介さん

ホテルを回るシャトルバス

 まず、ダラスについて簡単に述べたいと思う。人口は101万人で全米第8位の都市である。AHAの本部もここにおかれている。また、ダラスはコンベンション開催地としても有名で全米第2位となっている。街の中心部は週末にはひっそりとしてしまうオフィス街そのものであり、街の周辺に数多くのホテルやモーテルが立ち並んでいる。ちなみに我々の宿泊したモーテルは、学会場となるダラス・コンベンショナル・センターから車で約20分のところであった。(なお学会ではホテルを回るシャトルバスが用意されていた。)

  ダラスがこのように発展したのは1930年にダラスの東100マイルの地に発見された油田と、1957年にオープンしたホーム・ファーニシング・マート、後のダラス・マーケット・センターの発展による所が大きい。またダラス市とフォートワード市の合意による国際空港のオープンも忘れてはならない。現在この空港の離発着便数は全米1位、搭乗客数は第2位という巨大な要塞となっている。

 日本との時差は15時間。気候は10月から3月までは気温2-3度から15-17 度くらい、4月から9月は15-17 度から33度くらいとなっている。ちょうど我々が出かけた頃、北海道は雪模様であったが、ダラスは9月-10月頃の北海道といった感じであった。

熱気ムンムンの場内

 さて本題の学会について報告したいと思う。今回の学会は日曜日から水曜日の開催となっていた。日曜日の午前中はサンデーモーニングプログラムというセッションで有料のものであった。このセッションが午前9時からであり受付の混雑や交通事情を考えると午前7時30分にはモーテルをでなければならず日本にいるときよりも早起きしなければならなかった。学会の正式な開催は午後1時からであり5時まで一般演題が行われ、午後6時から8時まではセミナーとして36の会場で様々な分野の最新情報が紹介されていた。

 翌日はポスターの発表もあり、前日同様7時30分のバスに乗り込んだ。ポスターの貼附は9時-12時で、そのうち10時30分-12時の間は近くで待機して質問に受け答えする形式のものであった。開場と同時に大勢が場内に押し寄せ熱気ムンムンであり、その勢いに多少気後れぎみで、緊張した。幸いあまりしつこい質問はなく、さらに私の主任がほとんどつきっきりでいてくれたため事なきを得て終了した。この日も昨日同様に5時までの一般演題と6時からのセミナーに参加して、12時間も学会場にいるというすばらしい1日を過ごした。(正直な話、時差の影響がそろそろ出始めて夕刻近くには夢うつつではあったが…)。

最先端の話題や技法

 3日目も朝は同じ8時30分からのスタートだが、午後は5時までの開催であった。各セッションはテーマごとにかなり細分化されており内容も多岐にわたっている。従ってあれもこれも聞くわけにはいかずどうしても一つか二つのテーマの、あるパートにポイントを絞らなければならない。あまりマンモス学会になるのも善し悪しだなという感じがした。

 私は心MRI(核磁気共鳴イメージング法)を中心に発表を聞いてきた。新しい造影剤の話題や撮像方法、冠状動脈病変の評価法、心機能の評価の可能性などの最先端の知見を体感できた。その他では例えば、ベーシックな分野では循環器疾患における遺伝子診断・治療の話題や心肥大や動脈硬化を起こす分子生物学的メカニズムの解明、心筋梗塞後の心筋細胞再構築やアポトーシスの話題、抗酸化作用を持つ薬物の基礎的実験データなど。

 臨床面からは、運動療法単独でも心血管疾患の危険因子である血圧、コレステロール、中性脂肪を改善する、慢性心不全の不整脈による突然死の予防には植え込み型徐細動器が有用である、心筋梗塞の発症や突然死が労働者人口では月曜日の朝に多いという従来の報告が非労働者人口においてもあてはまり、これは月曜日が労働の開始だけでなく社会的な活動の開始というストレスとして寄与しているためであろう、など興味深い発表が盛りだくさんであった。

心に残る戦いの意気込み

 とにかく巨大な学会で、朝早くから夜まで情熱的な討論が続きそのエネルギーには圧倒されるばかりである。心疾患や脳卒中に対する戦いの意気込みがひしひしと感じられた。この学会中に得られた知見が臨床の場で役に立つにはもう少し時間が必要とは思うが、少なくとも心血管疾患に対するファイティングスピリッツだけは忘れずに精進し、英語にも磨きをかけ再度AHAに参加したいと思う。


  
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