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第16回国際心臓研究学会に参加して
旭川医大第1外科 真岸克明国際心臓研究学会(ISHR=International Society for Heart Research)は心臓血管に関する様々な研究をしている研究者の集まりで、世界大会は3年に1度開催されます。
医学者ばかりでなく、薬学者、生物学者など専攻を問わず心臓を中心とした循環器系の研究者が集まり、日頃の研究の成果を発表する場であります。今回(第16回)は、ギリシャのロードス島で5月27日から31日まで行われました。
各国研究者と意見交換する筆者(中央)
十字軍遠征の前線基地
ロードス島は、ギリシャ神話の妖精ロドスにちなんだ名を持つ美しい島で別名バラの島と言われております。かつて中世ヨーロッパの十字軍のエルサレム侵攻の際の前線となっていた島です。高い石の城壁に囲まれたロードス市旧市街は当時の美しいたたずまいのままで、十字軍遠征の頃、負傷した騎士をヨーロッパに送還する際に治療を行ったという建物も、騎士団の建物も、石畳の道も当時のままに残っています。ロードス島の沖合い十数キロメートルにはトルコ領小アジアがあり、かつてトルコとの戦いの際には最前線となり、また、その占領下となった島でもあります。ロードス島はいまは世界的にも有名なリゾート地で多くのホテルが建てられており、今回はその中の一つロードスパレスで学会が開かれました。
学会はいくつもの会場からなり、それぞれ心臓研究の世界的権威の方々の名前が付けられており、そこでシンポジウムや研究発表が行われました。私はポスターで学会に参加しましたが、その発表会場は屋内のプールサイドで、日中は宿泊客がそのプールで遊んでいました。
ポスターセッションでは各研究者が最新のデータを発表しており、今後の研究に大変参考になる発表もありました。今回の学会では、最近話題となっているNO(一酸化窒素)や遺伝子レベルでの解析や、特殊な状態で心筋組織に発現するタンパク質の解析による研究が目につきました。
発表会場は屋内のプールサイド |
ナトリウムポンプ機能に関心
さて、一般的に多くの場合、心臓手術の際、心臓を一時的に止めて手術を行います。そして手術操作後、再び心臓を動かすわけですが、心臓が動き出す際、すぐにはもとの機能では働きません(stunningと言います)。私がいま興味を持っているのは、stunningがなぜ起こるかであり、その予防であります。
stunningの予防は、心臓停止中に心臓の機能をいかに保存するか、と言うことにつながります。 心臓手術後、stunningの期間短縮が、術後、患者さんの体の状態の善し悪しにもつながり、退院までの時間にも影響するものと考えております。
stunningの解消のために、私は心室筋の細胞膜にある、いわゆるナトリウムポンプの機能に興味を持っております。今回の学会では、その直接的なヒントとなるような発表は全体の中では少数でしたが、今後の研究のヒントとなるもの、または興味をそそる演題は多くありました。また、多くの専門家の方々とも意見の交換ができ、有意義な集まりでした。
医学の父ヒポクラテス誕生の地
学会の中日には学会主催の小旅行があり、今回は客船を貸し切って、隣り(と言っても片道4時間の船旅ですが)のコス島へと行きました。コス島は西洋医学の父といわれるヒポクラテス誕生の地であり、紀元前に彼が科学的な観察を基にした現代風の医学、治療を行っていた地であります。
かつての治療院兼医学校兼神殿跡のあるアスクレピオスの丘(アスクレピオスは、ギリシャ神話の医学の神)へ行き、古の医学者たちに想いを馳せたのでありました。往復8時間の船旅で、コス島で過ごしたのは1時間程度とあわただしい旅でしたが、ほぼ総ての学会員がコス島参拝≠行うという貴重な体験をさせていただきました。
5日間にわたる学会も、コス島への船旅など行事も多かったせいであわただしく終わってしまいました。各国の研究者の様々な独創的な研究に触れることができ、また国内外の先生方との親交も深めることができ大変有意義な集まりでした。
3年後は、カナダでISHR国際学会が開かれますが、それに向け今回得た新たな知見を基に研究を行わねばと、気の引き締まる思いで帰国いたしました。
*北海道心臓協会は「研究開発調査助成事業」により真岸氏に旅費補助を行いました。