近年、手術技術や周術期管理の進歩に伴い、より高齢で併存疾患の多い患者にも手術適応が拡大してきていることから、高齢患者においては術後リハビリ進行が遅延し、退院時の日常生活動作(Activities of Daily Living:ADL)が術前のADLと比較して低下したまま退院する方も少なくありません。入院加療に伴うADL低下は、入院関連能力低下(Hospitalization-Associated Disability:HAD)と呼ばれ、高齢心臓外科手術患者の20%前後に発症することや、HADを発症すると遠隔期の予後が不良となることが明らかとなっています。多くの先行研究では、ADL評価バッテリーの1項目以上が減点した場合を一元的にHADと定義して解析がされております。一方で、高齢心臓外科手術患者は、複数のADLが障害されることが多く、HADには重症度があることが推察されますが、HADの重症度と予後との関連は明らかとはなっておらず、今回検討させていただきました。
当院にて心臓外科手術を施行された141例を解析対象とし、ADL評価バッテリーの一つである機能的自立度評価表(Functional independence measure:FIM)の低下項目数に応じて、非HAD、軽症HAD、重症HADに分類して検証しました。主要エンドポイントは、退院後2年以内の主要脳心血管イベント(MACCE)としました。結果、中央値730日の観察期間でMACCEは23例(16.3%)に認め、Kaplan-Meier法によるイベント回避率(非HAD vs 軽症HAD vs 重症HAD)は、88% vs 78% vs 53%でした。年齢、性別、左室駆出率、身体的フレイルなどで調整した多変量Cox比例ハザード分析の結果、軽症HADは関連を認めず、重症HADのみが独立して関連しました。