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NO.135 |
第17回 アジア太平洋ハートリズム学会学術集会
北海道大学大学院医学研究院 循環器内科学教室
大学院生 甲谷 次郎氏
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この度、豪州シドニーにて2024年9月26日から4日間の日程で開催された第17回アジア太平洋ハートリズム学会(Asia Pacific Heart Rhythm Society:APHRS)学術集会で発表をさせて頂きました。
虚血性心不全による心室性不整脈は致死的転機となりうるため、その機序のさらなる理解や治療法の確立が望まれています。従来、交感神経活性により生じるノルエピネフリン(NE)とその受容体(β受容体)カスケードの結果生じる心筋細胞内カルシウム濃度上昇が原因と考えられていましたが、β受容体遮断薬を投与しても致死的不整脈を完全に抑制することは困難でした。そこで、今回我々は交感神経活性でNEと共放出されるNeuropeptide Y(NPY)という神経ペプチドに着目しました。NPYは36アミノ酸残基からなる神経ペプチドで、中枢・末梢神経に広く分布し、心臓に最も多く存在する神経ペプチドです。NPYは筋小胞体からカルシウムを放出させ細胞内カルシウム濃度を上昇させることが明らかになっています。最近、心筋梗塞患者で心室性不整脈が発生した患者群において有意に血漿中NPY値が高値であったことや、動物モデルにおいて星状神経刺激による交感神経刺激において、β遮断薬に加えてY1受容体遮断薬を併用することにより心室細動閾値を上昇させたことが報告されました。一方、慢性期の虚血性心不全モデルにおいてNPYによる催不整脈作用とカルシウム動態への影響はわかっておらず、本研究では、虚血性心不全マウスモデルにおいて、NPYによる催不整脈性とその機序を明らかにすることを目的としました。
免疫組織染色において虚血性心不全群では梗塞領域のNEの発現がsham群と比較して有意に低下しているにも関わらず、同領域のNPY発現は有意に上昇しました。また、虚血性心不全モデルの単離心筋細胞でNPY投与群において、拡張期のカルシウムウェーブを認める細胞の割合、1細胞あたりで認められるカルシウムウェーブの平均回数が増加しました。NPYに加え、NPYY1受容体遮断薬(BIBO3304)を添加すると、拡張期のカルシウムウェーブを認める細胞の割合、1細胞あたりで認められるカルシウムウェーブの平均回数は有意に低下しました。最後にランゲンドルフ灌流心において、NPY投与群では心室性期外収縮の平均回数と非持続性心室頻拍及び心室性二段脈を含む複雑性心室性期外収縮を認めた割合が有意に上昇しましたが、NPYに加えてBIBO3304を添加すると、これらは有意に抑制されました。
これらの結果から虚血性心不全モデルにおいてもNPYがカルシウム過負荷を介した催不整脈性を有する可能性が示され、虚血性不全心患者において、NPYシグナルに着目した治療戦略は心室性不整脈治療の新たな選択肢になることが示唆されました。
ポスター発表ではありましたが、多くの聴衆にご参加頂き、非常に有意義なディスカッションを行うことができました。今回得られた知見を踏まえ論文化にむけて鋭意努力していく所存です。
最後になりましたが、本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜りました一般財団法人北海道心臓協会に心より厚く御礼申し上げます。

