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NO.125 |
第72回米国心臓病学会学術集会
北海道大学大学院医学研究院循環病態内科学
大学院 數井 翔氏
第72回米国心臓病学会学術集会が2023年3月4日〜6日にルイジアナ州ニューオーリンズで開催され、私は「心臓サルコイドーシス患者における心筋トロポニンの経時的推移と予後との関連」という演題を発表しました。
サルコイドーシスは全身のあらゆる臓器に非乾酪性肉芽種を形成する炎症性疾患です。発症機序は諸説あるものの不明であり、自然寛解も見られ基本的には良性疾患で予後は良好ですが、心臓病変の存在(心臓サルコイドーシス)は致死性不整脈や重症心不全をきたし、突然死の原因ともなり、サルコイドーシス患者の予後を大きく左右することが知られています。心臓サルコイドーシスの治療は副腎皮質ステロイドなどの免疫抑制療法が主流であり、臨床においてはガイドラインのプロトコールに沿ってプレドニゾロン(PSL)を調整することが多いとされています。
一方、心筋トロポニンT(Cardiac Troponin T:cTnT)はあらゆる心筋障害で血中濃度が上昇することが知られています。心臓サルコイドーシス診断時においてもcTnTが上昇しており、免疫抑制療法開始により速やかに血中濃度が低下することが報告されていますが、臨床においては免疫抑制療法を行っても持続的にcTnTが高値を示す症例が存在します。
また心臓サルコイドーシスの活動性を評価するマーカーとして高感度心筋トロポニンが有用である可能性が小規模研究で報告されていますが、cTnT値の経時的推移と有害事象の関連について検討した報告はこれまでにありませんでした。
以上から本研究では心臓サルコイドーシス患者における免疫抑制療法開始前後のcTnTの経過と合併症イベントの関連性を明らかにすることを目的としました。本研究は後ろ向き観察研究であり、北海道大学病院に通院している免疫抑制療法を行っている心臓サルコイドーシス患者を対象としました。cTnTは患者が入院中のPSL開始前と開始1ヵ月後の時点で測定し、退院後6ヵ月間は4〜6週おき、その後は8〜12週おきに測定しました。これらの経時的なcTnTの軌跡(Trajectory)から曲線下面積(Area Under theCurve:AUC)を算出することによりcTnTの推移を評価し、1ヵ月あたりのAUCの中央値により2群に分け、検討を行いました。主要評価項目は持続性心室頻拍または心室細動、心不全入院、および心臓突然死の複合有害事象としました。解析対象は2013年12月から2022年10月の間に心臓サルコイドーシスと確定診断され、免疫抑制療法が行われ、かつ経時的にcTnTが測定された60症例としました。中央値26.9ヶ月の観察期間内に、12人(20%)の患者に有害事象が発生し、経時的なcTnTのTrajectoryから算出されたAUC高値群において、有害事象の発生が有意に多くなりました(P = 0.031)。また、既報における臨床的に重要な交絡因子(心室頻拍/心室細動の既往、Brain Natriuretic Peptide(BNP)値、左室駆出率、診断後の心室頻拍に対するアブレーションの既往)で調整後も、c-TnTのTrajectoryは複合有害事象の発生と有意に関連していました(ハザード比[95%信頼区間]6.14[1.93-19.5]、3.95[1.42-10.5]、3.85[1.42-10.5]、4.44[1.62-12.2])。一方、免疫抑制療法の開始前と開始1ヵ月後のcTnT、およびこれらの変化量に関しては、両群間で有意な差を認めませんでした。
以上のように、心臓サルコイドーシス患者において、経時的に測定されたcTnTは有害事象の発生と有意に関連していました。cTnTの経時的なフォローアップが、心臓サルコイドーシス患者における免疫抑制療法導入後早期のリスク層別に有用である可能性が示唆されました。
末筆ではございますが、本学会参加にあたり研究開発調査助成を賜りました一般財団法人北海道心臓協会に心より厚く御礼申し上げます。

