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第7回日本肺高血圧・肺循環学会学術集会
北海道大学大学院 医学研究院 呼吸器内科学教室
大学院生 杉本 絢子氏
2022年7月2日・3日に東京にて開催の第7回日本肺高血圧・肺循環学会学術集会に参加しました。
今回私が発表した演題は、「肺高血圧合併間質性肺疾患における肺血管病変の病理学的解析」です。
肺高血圧症(pulmonary hypertension; PH)は、心臓から肺へ血液を送る血管である肺動脈の血圧が高くなることで、右心不全に至る疾患であり、原因や病態により5群に分類されています。近年、1群の肺動脈性肺高血圧症では肺血管拡張薬により予後が著明に改善しています。その一方、3群に該当する肺疾患合併肺高血圧症は、未だ有効な治療に乏しく予後不良であり、その病態解明と有効な治療の開発は喫緊の課題となっています。
肺疾患合併肺高血圧症の重要な背景疾患の一つに間質性肺疾患があります。間質性肺疾患の中で肺高血圧症を発症するのは一部ですが、その発症機序は不明です。間質性肺疾患の肺高血圧症合併例と非合併例の肺血管系の病理学的差異については、少数の報告が存在するものの全体像を網羅的に解析した報告は無く、どの肺血管のどのような形態変化が肺高血圧発症に主に寄与しているのかは不明です。
そこで今回、間質性肺疾患への肺高血圧症合併における肺血管病変の関与を病理学的に解析し検証することを目的とし、後ろ向き観察研究を行いました。
肺高血圧症合併間質性肺疾患(ILD-PH)の6剖検例の肺筋性動脈と肺静脈の面積狭窄率、肺小血管の面積狭窄率と筋性化、肺毛細血管の多層化を、肺高血圧症非合併間質性肺疾患(ILD-NoPH)3例と比較しました。次に、各血管が存在する領域の肺線維化レベルを3段階(線維化なし/軽度、中等度線維化、高度線維化)に分類し同様に比較しました。
解析の結果、肺筋性動脈と肺静脈の面積狭窄率は、ILD-PH群とILD-NoPH群との間で差がありませんでした。その一方で、ILD-PH群の肺小血管の面積狭窄率、肺小血管の筋性化の頻度、肺毛細血管の高度多層化の頻度は、全てILD-NoPH群より高値でした(p<0.05)。同様に、中等度線維化領域におけるILD-PH群の肺小血管の面積狭窄率、肺小血管の筋性化の頻度、肺毛細血管の高度多層化の頻度も、ILD-NoPH群より高値でした(p<0.05)。
本解析の結果から、間質性肺疾患への肺高血圧症合併には、主に中等度線維化領域の肺小血管の筋性化と狭窄、及び肺毛細血管の多層化が寄与している可能性があると考えられました。
今後は、肺血管拡張薬の標的蛋白や血管病変の成因などに関する追加解析を予定しております。有効な治療が確立していない肺疾患合併肺高血圧症に対する肺血管拡張薬使用の適正化や、更には新しい治療の開発に結び付く知見が得られる可能性があると考えております。
末筆ではございますが、本学会への参加に際しまして、一般財団法人北海道心臓協会の選考委員の先生方ならびに関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。