NO.113 |
第69回日本心臓病学会学術集会
北海道大学大学院医学研究院 循環病態内科学教室
大学院生 千葉 泰之 氏
第69回日本心臓病学会学術集会が2021年9月17日から3日間の日程で開催されました。昨今のCOVID-19感染症拡大という状況を受けて、現地(鳥取県米子市)とWeb形式を組み合わせたハイブリッド開催となり、私はWeb形式で参加させて頂きました。
私はこの学術集会において、慢性心不全患者において予後との関連が示されている右室機能の評価法に注目し、体循環と肺循環の特徴の違いから検討した結果を報告させて頂きました。
心仕事量と心拍数の積で表されるcardiac power output(CPO)は心臓のポンプ機能を表す指標であり、左室CPOの低下は様々な病態の心不全の予後不良因子として知られています。左室と右室が直列回路を形成しているという観点から、右室のCPOも同様に心不全における予後と関連することが予想されますが、その意義は明らかではありません。
一方、心不全における左房圧上昇は、肺循環への受動的伝播とそれによる肺血管障害により肺高血圧を生じ、過剰な右室後負荷とその後の右室機能不全を経て心不全の予後と関連することが知られています。
本研究ではこれらに着目し、左室および右室のCPOと右室後負荷、ならびにこれらの組み合わせによる予後予測能の評価と、心エコーにより求めるこれらの指標の予後予測における付加的価値を検討することを目的としました。
結果として、左室CPOの低下や右室後負荷の上昇に伴い心不全入院などの心血管イベントは増加しましたが、右室のCPOは心血管イベントと関連しませんでした。また心エコーにより求めた左室CPOと右室後負荷を組み合わせることにより、心血管イベントのリスクの層別化が可能であり、これらの指標が既存の臨床指標への付加的価値を有することが明らかとなりました。
体循環のポンプを担う左室では、心不全の病期の進行に伴い末梢血管の調節機能の低下も関連してCPOは直線的に低下することが予想されます。
しかしながら右室のCPOは肺動脈圧の上昇に伴い一時的な上昇を認めますが、病態が進行するにつれて右室の心仕事量が低下して右室CPOは低下すると考えられ、このような逆U字型の変化のため右室CPOによる心血管イベントの予測が困難であると考えられました。
一方で右室後負荷は左房圧上昇や肺血管リモデリングの進行から右室機能へ影響し、次第に上昇すると考えられます。これらの結果から、イベント予測としては右室のポンプ機能を示すCPOよりも右室後負荷指標が有用であると考えられました。
この結果は、心不全パンデミックと呼ばれる現代の循環器診療において、心不全患者のリスク評価に役立ち、日常臨床における一助となると考えます。
末筆ではございますが、本学会の参加にあたり研究開発調査助成を賜りました一般財団法人北海道心臓協会に心より厚く御礼申し上げます。