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第64回日本透析医学会(JSDT)学術集会
札幌南一条病院透析センター
臨床工学技士 小黒 雪氏
2019年6月28日から3日間、神奈川県横浜市のパシフィコ横浜で開催された「第64回日本透析医学会(JSDT)学術集会」に参加致しました。私は本学会において「慢性透析におけるP・Ca管理状況に関する検討第2報」という演題で発表する機会を頂きました。
長期透析患者における血清P高値を中核としたCa・PTH代謝異常はCKD-MBD・血管石灰化・骨折などを介して生命予後に寄与する重要な課題とされています。当院透析室では、2016年8月より当院システム開発室の協力を得て透析患者のP・Ca管理におけるJSDT推奨の9分割表を自動表示化し、個々の患者名とデータが9分割表上(G1〜G2)に表示されるシステム(以下、9分割グラフ)を構築し、HD患者のP・Ca・PTH管理を行ってきました(昨年度本学会第1報)。
本研究では、より長期間における9分割グラフ導入の有用性を、導入前後のP・Ca・PTH管理状況、管理目標達成率の推移の面から検討致しました。
対象は当院外来透析患者144例のうち、2016年5月から2018年8月までの28か月間の採血データを、12か月以上追跡し得た105例としました。定期採血データを4か月ごとに平均し、9分割グラフ導入前、導入1期〜導入6期の計7期間に分け、さらにガイドラインに準じ血清P・Ca・PTHそれぞれ各期の平均値をもとに「Control群」「High群」「Low群」の3群に分類しました。
その結果、9分割グラフ導入後、補正Ca・PTH値の管理目標達成率は、全期間を通して補正Ca値で80%前後、PTH値で50%前後を維持し、かつ、血清P値は導入前の約47%から7期終了時には61%へと改善し、9分割グラフ導入の有用性が示されました。
血清P値の改善に関わる要因を栄養状態、透析量:Kt/V、P吸着薬使用量の面から検討すると、Hb・Alb値から推察される栄養状態(P摂取量)は増加、一方、Kt/Vは導入前の1.29から7期には1.37と改善、特に、High群での改善が顕著でした。P吸着薬使用量は、全ての群で軽度の増加が認められ、高Pの改善にはKt/VとP吸着薬の増加の関与が強く示唆されました。
最後に骨折の既往とCKD-MBD諸量との関連を検討致しました。期間中、骨折のあった症例は105例中14例にみられ、骨折群、非骨折群の2群間の比較では、加齢と高PTHが有意な寄与因子であることが示されました。
以上より、CKD-MBD管理・骨折の予防の向上には、9分割図の活用の徹底と栄養・服薬指導を含めたP・Ca・PTH管理の一層の強化の必要性が示唆され、今後の課題と考えられました。これらの課題をスタッフ間で共有し、患者さんの指導に活用、病態のより一層の改善に取り組んでいるところです。
今回の学会では、本発表に加え、他施設の透析に関する研究発表、質疑に接することができ、多くの刺激を受け、今後への意欲を高めることができました。また、私自身の発表でも、質問、助言、指摘を頂くことができ、今後の研究の進展、治療の質の向上へつなげたいと考えております。
最後に、本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜りました貴一般財団法人北海道心臓協会に心より感謝と御礼申し上げます。