NO.112 |
第12回悪液質、サルコペニアおよび
筋消耗に関する国際SCWD会議
札幌医科大学附属病院リハビリテーション部
理学療法士 片野 唆敏氏
この度、2019年12月6日から8日にかけて、ドイツのベルリン市内において12th International SCWD Conference on Cachexia, Sarcopenia and Muscle Wasting(第12回悪液質、サルコペニアおよび筋消耗に関する国際SCWD会議)という学会が開催されました。
この学会では、骨格筋量と筋力の両方の低下を特徴とするサルコペニア(≒筋消耗)や、高齢者に頻発する骨粗鬆症、脂肪組織と骨格筋の両方が消耗する病態である悪液質を対象に、その発生機序や治療、予防、予後予測に関する基礎的、臨床的研究が報告される場です。
今年はヨーロッパ諸国を中心に世界から32カ国もの研究者が参加しましたが、日本からの参加者は28名と全参加国で3番目に多い国でした。
本学会が発行している学術雑誌「Journal of Cachexia Sarcopenia and Muscle」の2018年のインパクトファクターは10.754点と、老年医学系の領域では最も影響力がある学術雑誌のひとつです。そのような質の高い研究が多く発表される学会に、この度、ポスターでの英語の口演をする機会を得ることができました。
私の研究課題は「Predictive accuracy of muscle wasting is improved by combination of anthropometric indicators with nutritional status score in patients with heart failure(形態計測に加えた栄養状態評価は心不全症例における筋消耗の診断精度を向上させる)」というものです。
本研究では、心不全症例における筋消耗の診断精度が、下腿周囲長や上腕周囲長の単独計測と比べて、栄養状態を評価することによって向上することを明らかにしました。
下腿周囲長を男性33.5p以下、女性30.3p以下、上腕周囲長を男性27.0p以下、女性26.5p以下とした場合に、実際に筋消耗である症例の割合は、順に85%、80%でした。これに、栄養状態の評価尺度であるMNA-SFが7点以下であることを追加評価すると、筋消耗である割合は順に94%、90%まで向上することを見いだしました。
本研究の結果は、在宅や介護施設など様々なフィールドで実施可能な筋消耗のスクリーニング法の確立に寄与すると考えております。今後は、筋消耗の予防法や治療法に関する研究を進め、一人でも多くの方が健康で自立した生活を長く送れるように尽力したい所存です。
最後に、本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜りました一般財団法人北海道心臓協会に厚く御礼申し上げます。