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第23回日本心不全学会学術集会
手稲渓仁会病院薬剤部
薬剤師 駒澤 宏紀氏
2019年10月4日から6日に広島で行われた第23回日本心不全学会学術集会に参加しました。「心不全に放つ3本の矢:心臓を診る、人を看る、社会を観る」をテーマに広島国際会議場で基礎から臨床まで幅広い演題が発表されました。その中で私は「当院における心不全教室参加患者の実態調査」という内容で、2018年10月より行っている心不全教室について発表しました。
日本は世界でもトップを走る超高齢化社会であり、平均寿命は世界第1位となっています。心不全を含む心疾患にかかる患者は増加し続け、がんに次いで、死因の第2位を占めています(2018年現在)。
高齢者の増加に伴い、高齢心不全患者が大幅に増加すること=「心不全パンデミック」が予想され、入院医療が必要な高齢心不全患者であふれ、病院が患者を受け止めきれなくなる事態が想定され、莫大な医療費がかかることなど社会的な問題が起こると予測されています。
そのため、心不全による再入院の低減を目的として、手稲渓仁会病院では2018年10月より心不全チームが発足し、患者およびその家族を対象とした心不全教室を開催しています。医師、薬剤師、看護師、理学療法士、管理栄養士、社会福祉士の6職種で構成され、週1回の心不全カンファレンスで入院している心不全患者の状態や今後の治療方針について情報共有を行っています。
月2回心不全教室を開催し、心不全の病態、薬物治療、食事、退院後の生活方法、運動、社会制度について情報提供を行っていますが、開催してから半年が経過し、説明内容の見直しを行う必要がでてきました。
心不全教室の効果を評価するための足掛かりとして、2018年10月25日〜2019年6月21日の期間に参加した患者の、性別、年齢、心不全悪化の理由、退院時内服薬数を調査し考察を行いました。
結果は対象患者数76名(男性50名、女性26名)、平均年齢は74.5歳、家族参加率37%でした。
心不全悪化の原因は水分過多、塩分過多、怠薬で29%を占めており、退院時内服薬剤数は平均10.2剤と多剤内服の状況であることが分かりました。
心不全治療を行う上で、水分、塩分の過剰摂取は生活習慣の改善が重要であり、心不全教室での生活教育で改善が見込まれると考えられます。
今回の調査から心不全患者は高齢であること多く、多剤内服になりやすいことが分かりました。心不全教室を通じて薬物治療に関する基本的な知識を提供することで、日々の服薬指導で個別に治療の重要性を理解し治療継続する「動機づけ」になっていると考えられます。
患者の自己管理が困難な場合、患者家族の協力が不可欠であり、家族にも心不全に関する情報提供を行うことで患者の治療を支えることが可能であると考えています。
今後は、生活習慣、服薬遵守等の改善のため患者、患者家族のニーズを把握し、指導内容を改善、退院後訪問などのサポート強化し、入院、外来の連携を密にして心不全による再入院の抑制にむけ取り組んでいく予定です。
心不全治療は入院中の治療だけでなく日々の生活の改善がとても重要です。心不全や心不全教室に興味のある方はぜひ手稲渓仁会病院までご連絡ください。
末筆ではございますが、この度の学会参加にあたり研究開発調査助成を賜りました一般財団法人北海道心臓協会に心より感謝申し上げます。