NO.110 |
第12回悪液質、サルコペニアおよび
筋消耗に関する国際SCWD会議
北海道社会事業協会 帯広病院
理学療法士 塚田 貴紀氏
2019年12月6日から3日間、ドイツ・ベルリンにてSCWD(Society on Sarcopenia, Cachexia and Wasting Disorders)が主催する12th Society on Sarcopenia and Muscle Wasting Disorders Conferenceが開催されました。今回私は幸いにも恩師らの支えによって本学会の参加と発表の機会を頂きましたので報告させて頂きます。
本学会は、特に骨格筋の基礎研究から臨床研究でレベルの高い報告が集まっており、筋力低下の原因が次々と解明されています。近年は、炎症や高血糖、低栄養、循環不全、交感神経の賦活、がん、ホルモン異常など、様々な因子が骨格筋にネガティブな変化を与えていることが分かってきました。
本学会が作成している雑誌(JCSM:Journal of Cachexia Sarcopenia and Muscle)は学術雑誌の影響力を示すインフパクトファクターが2018年に約10.754であり、今非常に注目されていることが分かります。臨床における筋力低下は廃用症候群という不活動の概念に囚われがちですが、多角的な要因を考えることが重要になってきました。
さて、今回私は「Clinical determinants of osteoporosis in patients with chronic heart failure」という演題にてポスター発表をさせて頂きました。本研究では、慢性心不全患者の骨粗鬆症を規定する臨床指標を網羅的に探索し、慢性心不全の骨粗鬆症を標的とした新たな治療法の確立に向けた知見を得ることを目的としました。慢性心不全の診断と治療のために入院した266例の患者を対象とし、全例がDEXA法による体組成分析を行い、腰椎または大腿骨レベルのTスコア2.5以下の場合に骨粗鬆症と診断しました。全対象者の35%に骨粗鬆症を認め、ステップワイズ法による変数選択と多変量ロジスティック回帰分析を用いて、臨床背景因子のなかから骨粗鬆症の関連因子を網羅的に探索した結果、女性(オッズ比[OR]7.05)、BMI低値(OR4.49)、歩行速度の低下(OR0.76)といった骨粗鬆症の伝統的なリスク因子に加え、ループ利尿薬(OR2.74)とSGLT2阻害薬(OR5.00)の内服、DPP4阻害薬(OR0.30)とDOAC(OR0.47)の非内服が独立した関連因子であることが明らかになりました。
本研究で得られた知見は、骨折リスクの高い心不全患者の早期発見や転倒骨折の予防を目的とした疾患管理プログラムの構築に寄与すると考えております。発表中は幾人かの先生からご助言をいただき、これからの研究遂行にあたり大変貴重なものとなりました。
この学会で得られた知見を今後の研究と臨床ならびに自分の武器である運動療法の発展に貢献できればと思っています。
末筆になりますが、本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜りました一般財団法人北海道心臓協会に心より感謝を申し上げます。