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第23回日本心不全学会学術集会
札幌循環器病院 リハビリテーション科
理学療法士 本間 傑氏
2019年10月4日から6日までの3日間にわたり、広島国際会議場で開催された第23回日本心不全学会学術集会へ参加してきました。
本学術集会は「心不全に放つ3本の矢:心臓を診る、人を看る、社会を観る」をテーマに心不全領域の先進医療やICT、緩和医療に至るまで多数の演題が発表されていました。コメディカルの演題も200近くが採択されておりそれらを見たり聞いたりすることで、様々な知見や刺激を得ることができ大変貴重な経験となりました。
私も本学会におきまして「高齢心不全患者の日常生活動作(ADL)能力に筋量と筋機能が与える影響」という演題名で口述発表を行ってきましたので、ここに概略を書かせていただきたいと思います。
我が国では、心疾患患者の高齢化や併存症の保有を背景に、多種多様な問題を抱えた心不全患者が増加しています。また、併存症の保有率が高いほど、臨床的転帰が不良であることが知られています。
併存症の中でも筋量や筋機能の低下を特徴とするサルコペニアは重要な病態です。サルコペニアは高齢心不全患者の運動耐容能低下と関連していることから、健康寿命の短縮に直結する問題として広く認識されています。サルコペニアの構成要素である、筋量や筋機能の低下はどちらもADL能力低下と関連しますが、高齢心不全患者を対象に筋量と筋機能がADL能力に及ぼす影響を検証することを目的としました。
筋量測定はDEXA法による四肢骨格筋量指標、筋機能測定は5回椅子起立時間を用い評価しています。主要アウトカムはBarthel Indexを用いたADL評価です。Barthel Indexとは10項目のADL指標を自立度に従ってスコア化し、その合計点数で評価をする方法です。
結果、筋量の減少と筋機能の低下はそれぞれADL能力の低下の独立した予測因子でした。また、筋量と筋機能ともに低下している群と筋機能のみ低下している群、筋量のみ減少している群、筋量と筋機能ともに正常な群の4群間でADL能力低下のオッズ比を比較しましたところ、筋量と筋機能ともに低下している群で最もADL能力が低下していました。また、筋機能のみ低下している群、筋量のみ低下している群の順にADL能力低下の傾向を示しました。
以上より骨格筋の質的変化はADL能力に影響を及ぼす可能性が示されました。本研究で得られた知見は、ADL能力の向上には筋機能への介入がより大切であることを示唆しており、健康寿命の延伸を目的とした運動プログラムの介入やケアプランの作成に役立つと考えられました。今後は本研究を発展させ、再入院や死亡率をアウトカムに研究を進めて参ります。
最後になりましたが、本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜りました一般財団法人北海道心臓協会に心より厚く御礼申し上げます。