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日本心エコー図学会第30回学術集会
北海道大学 大学院保健科学院
大学院生 村山 迪史氏
令和元年5月10日から12日の3日間にわたり、松本キッセイ文化ホールにおいて、日本心エコー図学会第30回学術集会が開催されました。
私は、「三尖弁輪収縮期移動距離と右室の大きさとの関係:三次元心エコー法に基づく検討」というテーマで発表しました。近年、心不全患者において、右室の収縮機能が患者予後(その病気がたどる医学的な経過についての見通し)の重要な規定因子となることが明らかになり、注目を集めています。心エコー検査は、その簡便性と再現性のよさから、心不全における初期診断と経過観察では最も多く行われる検査法であり、右室機能評価においても重要な役割を果たしています。心エコー検査で右室機能評価によく用いられる指標として、Mモード法による三尖弁輪収縮期移動距離が知られています。
この方法は、心尖部四腔像で右室自由壁側の三尖弁輪にカーソルを設定して記録したMモード像から、三尖弁輪が収縮期に心尖方向に移動した距離を計測することで、右室の収縮機能を評価するものです。比率ではなく絶対量を用いているため、計測値は右室の大きさ自体に影響される可能性がありますが、その実態はよくわかっていません。一方、最近、三次元心エコー法を用いた右室の大きさや収縮機能の評価が可能となり、その有用性が示されつつあります。
今回の発表では、心エコー検査を行い右室の三次元データを取得できた各種心疾患患者81例について、右室の大きさが三尖弁輪収縮期移動距離による右室収縮機能評価に与える影響を、三次元心エコー法で求めた右室駆出率との比較に基づき検討しました。その結果、右室拡大がない群(男性で三次元心エコー法で求めた右室拡張末期容積係数≦87ml/u、女性で≦74ml/u)では、三尖弁輪収縮期移動距離と右室駆出率との間に良好な相関関係が認められましたが、右室拡大がある群(男性で右室拡張末期容積係数>87ml/u、女性で>74ml/u)では、両者の相関は不十分でした。さらに、全例において、右室の大きさとの関係を検討すると、三尖弁輪収縮期移動距離は右室駆出率だけでなく右室拡張末期容積とも関係することがわかりました。すなわち、右室が大きいほど三尖弁輪収縮期移動距離は大きくなり、右室拡大がある例では、これを用いた右室収縮機能評価の精度が低下することがわかりました。本研究の成果は、日常の心エコー検査における右室機能評価の精度向上に役立ち、今後さらに増加すると推定されている心不全患者の正しい病態評価に貢献できるのではないかと思います。
今回の経験を糧に、これからも心エコー検査と研究を通して、さらに心エコーの技術と知識を深めて参りたいと存じます。末筆ではございますが、この度の学会参加にあたり、研究開発調査助成を賜りました一般財団法人北海道心臓協会に心より感謝申し上げます。