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第67回 日本心臓病学会学術集会報告書
北海道大学大学院医学院 循環病態内科学教室
大学院生 甲谷 太郎氏
第67回日本心臓病学会学術集会が2019年9月13日から3日間の日程で名古屋国際会議場にて開催され、私は「心筋梗塞後偽性仮性左室瘤に収縮性心膜炎の合併が考えられた1例」について症例報告をしました。
心筋梗塞の合併症は多岐にわたりますが、その中の左室瘤は、瘤壁を構成する構造物で、真性瘤と仮性瘤に分類されます。心筋梗塞後の左室瘤のほとんどが心筋で構成された真性瘤となります。一方で、仮性瘤は、心外膜で構成された左室瘤であり、左室瘤全体の0.4-0.9%と非常に少なく、破裂を契機に診断されることもあります。破裂リスクが高いため外科的手術が必要となる緊急性の高い疾患です。
本症例は、心筋梗塞後の左室瘤として入院となり、精査の結果、エコーでは左室瘤が一部心筋の欠落が否定できず、左室仮性瘤が疑われました。
そのため、準緊急で外科的手術(冠動脈バイパス術、左室形成術および心膜切除術)が施行されました。しかし、術中所見(心膜剥離後に瘤壁が出現し、瘤壁は繊維化が主体で一部は心筋を有していた)と病理所見(瘤壁は繊維化が主体、心膜には炎症細胞浸潤が認められた)により偽性仮性瘤の診断となりました。
偽性仮性瘤は、@心室瘤の入り口部が最大径に比べて狭い、A左室壁と心室瘤との移行部で心筋組織の突然の断絶を認める、B心室瘤壁は心筋の欠如した繊維組織で構成される、C心膜は心室瘤の外膜に癒着している状態と定義され、仮性瘤同様に破裂リスクがあるため早急な対応が必要で、非常に稀な疾患であります。
さらに術前に施行した右心カテーテル検査では、左室内圧の等圧化と低心拍出所見を認め、心タンポナーデ様の血行動態を呈しておりましたが、術後の右心カテーテル検査では、心拍出量は改善を得たものの、術前に認めなかった右室圧波形の「dip and plateau」と右房圧波形の急峻な谷を認め、収縮性心膜炎の残存を認めました。
これの原因としては、梗塞後左室瘤破裂部位が早期に癒着したことで止血され、炎症が心膜まで波及したことで収縮性心膜炎を呈し、少量の心嚢液で心タンポナーデ様血行動態に至ったものと考えました。
術後収縮性心膜炎が残存したのは、心臓後面の剥離が癒着により困難であったことが原因と推察されました。
本症例は、心筋梗塞後偽性仮性左室瘤に収縮性心膜炎を合併した報告は極めて稀であり、経時的に捉えられたユニークな血行動態が病態評価につながった貴重な症例でありました。
最後になりましたが、本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜りました一般財団法人北海道心臓協会に心より厚く御礼申し上げます。