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NO.99 |
第83回日本循環器学会学術集会
北海道大学大学院医学院 循環病態内科学教室
大学院生 辻永 真吾氏
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2019年3月29日から31日までの3日間、パシフィコ横浜で開催された第83回日本循環器学会学術集会に参加させて頂きました。人口の超高齢化に伴い、心不全の患者数や死亡者数は急増しています。このような時代の潮流を受け、本学術集会のテーマは「循環器病学Renaissance−未来医療への処方箋」とされ、心不全を含めた循環器病学の問題解決のための戦略とこれからの方向性に関して活発な議論が行われました。
私はこの学術集会において、慢性心不全患者における運動時の換気効率の規定因子を左室収縮能が保持された心不全と低下した心不全のそれぞれで検討した結果を口頭発表させて頂きました。
近年、運動時の換気の質を表す換気効率(息切れの指標)は、どの程度の運動強度まで運動を行うことができるかを表す運動耐容能よりも強く心不全患者の予後(その病気がたどる医学的な経過についての見通し)と関連すると報告されていますが、その生理学的な規定因子は十分には明らかにされておらず、さらには左室収縮能が保持された心不全と低下した心不全で違いがあるかもよくわかっていません。そこで本研究では、左室収縮能が保持されたあるいは低下した慢性心不全患者のそれぞれで、心肺運動負荷試験と運動負荷心エコー法を用いて運動時の換気効率の規定因子について検討致しました。
心肺運動負荷試験で運動時の換気効率の指標として、VE/VCO2を取得しました。VE/VCO2は運動時の二酸化炭素排出量に対する換気量の増加割合を示し、値が低ければ効率のよい換気、高ければ効率の悪い換気といえます。
心不全では、肺の血液量が増加した状態である肺うっ血や心拍出量低下による全身を循環する血液量の低下によって、換気血流不均衡、つまり、肺の新鮮な空気が入ってくる部分に十分な血流がこず、十分なガス交換ができないことが生じてVE/VCO2が上昇し、換気効率が悪化すると推察されます。臥位エルゴメーターを用いた運動負荷心エコーでは、安静時と運動時に左室収縮能を表す左室駆出率、心拍出量、左室弛緩能の指標として左室拡張早期の僧帽弁輪運動速度e’と肺うっ血の指標として左室拡張早期流入速血波形のE波をe’で除したものであるE/e’を取得しました。
結果は左室収縮能が保持された心不全群と低下した群の両群で、年齢が高くなり体格が小さくなると換気効率は悪化しました。そして、左室収縮能が保持された心不全群では、運動時の左室弛緩が低下し肺うっ血の程度が強く、心拍出量が低下すると換気効率は悪化しました。
一方、左室収縮能が低下した心不全群では、運動時の左室弛緩や肺うっ血の程度は換気効率に有意な影響を与えず、運動時の心拍出量が低下すると換気効率が悪化しました。つまり、左室収縮能が保持された心不全では、運動時の心拍出量とともに運動時の左室弛緩や肺うっ血が換気効率を規定しました。一方、左室収縮能が低下した心不全では、運動時の左室弛緩や肺うっ血というよりも運動時の心拍出量が換気効率を規定しました。
この結果は、左室収縮能が保持された心不全と低下した心不全では、運動時の息切れが起こるメカニズムが異なることを示唆し、慢性心不全の主症状の一つである運動時の息切れを改善させるためには心不全の病態別に異なるアプローチが必要であると考えられました。
末筆ではございますが、本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜りました一般財団法人北海道心臓協会に心より厚く御礼申し上げます。

