NO.95 |
Cell Symposia Multifaceted Mitochondria
北海道大学大学院医学研究科
循環病態内科学
大学院生 前川 聡氏
2018年6月4日から6月6日までの3日間、アメリカ合衆国カリフォルニア州サンディエゴのParadisepointで開催された「Cell Symposia Multifaceted Mitochondria」に参加してきました。このシンポジウムは、日頃からミトコンドリアについて研究している専門家が集まり、ミトコンドリアについてさらに理解を深めることを目的として開催されました。
私はこのシンポジウムにおいて「心筋ミトコンドリアにおいて複合体Uに関連した呼吸能は複合体Tに関連した呼吸能に匹敵する」という題目でポスター発表させていただきました。
心臓はポンプとして絶え間なく機能しなければならないため、多くのエネルギーを持続的に必要とする臓器です。ミトコンドリアはエネルギー(ATP)産生において主要な役割を果たしており、特に心臓のように多くのエネルギーを必要とする臓器ではその働きは重要と言えます。ミトコンドリアでは酸化的リン酸化によってエネルギーが産生されます。酸化的リン酸化では、電子伝達系を構成する複合体T、U、V、Wを電子が順番に伝達される間にミトコンドリア内膜の内外にプロトンの濃度勾配が生じ、この濃度勾配を利用してATP合成酵素である複合体XによりATPが産生されます。電子が伝達される経路には複合体TからV、Wへ伝わるものと、複合体UからV、Wへ伝わるものの2種類あります。複合体T、V、Wはさらなる複合体である超複合体を形成することで複合体間の電子伝達を効率的に行えると考えられています。
一方、複合体Uはこの超複合体には含まれていません。このことから、複合体Tを介した経路(複合体Tに関連した呼吸能)の方が複合体Uを介した経路(複合体Uに関連した呼吸能)より効率的で多くのエネルギーを産生できることが推測されますが、これまでに複合体TとUに関連した呼吸能を比較した研究はありません。
そこで、我々は「ミトコンドリアの複合体Tに関連した呼吸能は複合体Uに比較して大きい」という仮説を立て、マウスの心筋ミトコンドリアを使用してこの仮説を検証しました。C57BL/6Jマウスの心臓を麻酔下に摘出し、左室心筋から単離したミトコンドリアの呼吸能をOROBOROS社製のOxygraph2-kという機械を使用して測定しました。
この際、各複合体の基質、阻害剤を順番に加えていくことで、各複合体に関連した呼吸能を測定することができます。呼吸能を測定すると、予想に反して複合体Uの呼吸能は複合体Tの呼吸能と匹敵しており、両者に有意差はありませんでした。この結果は、ミトコンドリアのATP産生において複合体Uは複合体Tと同等に重要な役割を果たしていることを示唆します。今後、ミトコンドリア機能不全が関与する病態において複合体Uの機能を評価することが重要と言えます。
発表中は複数の先生方から大変貴重な御助言等をいただきました。また、他の研究者の報告には、様々な観点からアプローチした研究、詳細なメカニズムの一端に触れる研究など興味深いものが数多くあり、今後の自分の研究を発展させるにあたり大変貴重な見聞が得られました。
最後になりますが、本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜りました一般財団法人北海道心臓協会に心より厚く御礼申し上げます。