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第63回日本透析医学会(JSDT)
学術総会・集会
札幌南一条病院 臨床工学科
臨床工学技士 中澤 康氏
2018年6月29日から7月1日までの3日間、兵庫県神戸市の神戸国際会議場・ワールド記念ホール、他複数の場所で開催された「第63回日本透析医学会(JSDT)学術総会・集会」に参加してきました。今回は、腎代替療法を中心に「患者のためになる医療は何か」について考え、日本全体の腎代替療法の水準の向上・維持することを目標に、腎機能と患者活力の甦りを図るということで「腎甦絶技」という言葉をテーマに開かれた学会でした。
私は本学会において「慢性透析(HD)患者における9分割図の自動化によるP・Ca管理の有用性に関する検討」という演題で発表する機会をいただきました。慢性透析患者では腎機能の廃絶により、高P・低Ca血症、高PTH・FGF23血症などにより、全身の血管の石灰化・脳血管障害・冠動脈疾患・末梢動脈疾患・腎性骨異栄養症などのいわゆるCKD・MBDが生じ、これらが生命予後に大きな影響を及ぼす事が明らかにされています。
CKD・MBDの適正管理には、まず、Pの、次いで、Ca、PTHの管理が推奨されており、それには患者自身の食事管理や確実なP吸着薬の内服、十分な透析量の確保が不可欠とされています。
当院透析室では、2016年8月より当院システム開発室の協力を得て透析患者のP・Ca管理におけるJSDT推奨の9分割表を自動表示化し、個々の患者名とデータが9分割表上(G1〜G9)に表示されるシステム(以下、9分割グラフ)を構築し、HD患者のP・Ca・PTH管理を行ってきました。
本研究では、当院外来HD患者106例のうち2016年4月から2017年8月までの16ヶ月間追跡し得た51例を対象とし、16ヶ月間の定期採血データを4ヶ月ごとに平均し9分割グラフ導入前・導入1期・導入2期・導入3期の4期間に分けて、P・Ca・PTHの管理状況の推移を観察、9分割グラフ導入の有用性を検討しました。
その結果、9分割グラフ導入後、症例全体のP・Ca値は有意に改善し、9分割グラフ導入の有用性が示されました。一方、一部の患者では、P・PTHの管理が不十分である事が明らかになりました。
そこで、管理が不十分な理由を、@食事管理の指標:傳W(透析間の体重増加率)・血清Alb値とHb値、A透析量:Kt/V、BP吸着薬の処方状況(コスト)の面から検討致しました。検討の結果、P・PTH管理が不十分な患者では、AlbとHbが高く、Kt/Vが低く、食事管理とそれに見合った透析量に課題がある事、かつ、P吸着薬の使用コストが高いことが判明しました。
この研究結果を主治医、透析室看護師・臨床工学士などのスタッフ、管理栄養士、薬剤師、放射線技師が共有し、それぞれの立場から、課題の一層の改善に取り組んでいるところです。
今回の学会参加で、日本各地から透析に携わる多くの職種の医療従事者の、それぞれの立場からの研究発表・討論が行われ、多くの刺激を受けました。
また、自身の発表でも質問・指摘・助言を頂くことができ、今後の研究の進展・治療の質の向上へのモチベーションを高めることができました。
最後に、本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜りました一般財団法人北海道心臓協会に心より感謝と御礼を申し上げます。