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第65回日本心臓病学会学術集会
北海道大学大学院医学研究院循環病態内科学
大学院生 小梁川 和宏氏
第65回日本心臓病学会学術集会が2017年9月29日から3日間の日程で大阪国際会議場にて開催されました。今回の学術テーマは『臨床心臓病学のジェネラリティとスペシャリティ』でした。ジェネラリティとは広範囲に多岐にわたる、スペシャリティとは専門性という意味です。
昨今では高齢化社会が進む中で、循環器疾患に併存疾患を有する患者層が増加しています。このような社会の中で、我々、循環器医も専門知識のみならず多岐にわたる疾患の知識も必要となっており、今後の循環器医の在り方や取り組みなどが議論されていました。また、他にもテーマの通り幅広くかつ奥深い研究内容を多数拝見することができ、3,000名以上の参加者が集まり充実した学術集会でした。
私は「成人ファロー四徴症の残存肺動脈弁閉鎖不全症に対する術前後の右室容積評価に造影CTが有用であった一例」について症例報告をしました。ファロー四徴症はあまり馴染みのない病名と思いますが、先天性心疾患で生まれつき心臓の構造異常をきたしている病気です。
ファロー四徴症には4つの特徴があり@心室中隔欠損A肺動脈狭窄B右室肥大C大動脈騎乗があります。この病気は心臓に負担がかかるとチアノーゼと言う血液中の酸素濃度が低下した際に起こる皮膚や粘膜の青紫色の状態に陥ります。チアノーゼの状態が長く続くと運動をしたりするのが難しくなってきます。
ファロー四徴症はチアノーゼ心疾患の中で最も多い病気です。幼少期に根治術を施行されるのが一般的であり、外科手術の成績向上に伴い術後25年の生存率は98%前後とも言われています。
しかし、より遠隔期になるにつれ合併症が出現することが知られおり、心不全や不整脈、肺動脈弁逆流、肺動脈弁狭窄などが挙げられます。
今回は術後20年以上経過し重度の肺動脈弁逆流が原因で心不全増悪をきたした症例の発表をさせて頂きました。
肺動脈弁逆流が慢性的に与える右室容量負荷は右室機能の増悪、不整脈の発生を生じます。これらは心不全増悪や突然死などを引き起こすことがあります。そのため肺動脈弁逆流の適切な評価及び治療が重要となります。しかし、肺動脈弁逆流の手術時期について統一的見解はありません。
指標として右室容積が増大し過ぎる前に手術をすべきとの報告もあります。そのため、右室容積の評価を心臓MRIで正確に評価する必要があります。
しかし、ペースメーカ等のデバイス植え込み後や閉所恐怖症などからMRI撮像が困難な場合があります。その場合に心臓CTにて代用が可能となるとの報告があります。
本症例も心臓CTにて右室容積を評価し手術適応検討を行い、手術治療の方針と致しました。術後1年後の心臓CTでは著明な右室容積の縮小を認め、心不全増悪もなく外来に通院しております。
まだまだ心臓CTにおける容積評価は一般的ではありませんが、最新機器の発達などもあり益々、進んでいくものと思われます。
最後になりましたが、本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜りました一般財団法人北海道心臓協会に心より厚く御礼申し上げます。