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2017年度欧州心臓病学会
北海道大学大学院医学院 循環病態内科学教室
大学院生 中島 孝之氏
2017年度欧州心臓病学会が、8月26日から5日間の日程で、スペインのバルセロナで開催されました。
学術集会の開催が翌週に迫った8月17日にバルセロナのメインストリートとして知られるランブラス通りで痛ましいテロ事件が起きましたが、学会自体は大きな予定変更はなく開催され、会場は世界最大規模の循環器学会と呼ぶにふさわしい賑わいをみせていました。
私は今回、「心臓周囲脂肪におけるミトコンドリア機能障害が冠動脈硬化と関連する」という演題で発表させて頂きました。
加齢や生活習慣病による脂肪の過剰な蓄積は脂肪毒性として多臓器を障害しやすくなり、特に異所性脂肪の蓄積はインスリン抵抗性や動脈硬化に関与することが報告されています。
異所性脂肪の一つである心内膜心臓周囲脂肪(EAT)においては、その量が増えることが冠動脈疾患と関連していることが報告されていますが、その量と疾患の重症度に相関があるかに関しては一定の見解はありません。
そこで今回EATの質的変化に着目し、EAT内での代謝活動に必要なエネルギーを産生しているミトコンドリア機能と冠動脈硬化との関連について研究いたしました。
開心術を受ける患者からEATを採取し、EATにおけるミトコンドリア機能を解析しました。
冠動脈疾患患者において非冠動脈疾患患者と比べて有意にミトコンドリア機能が低下していることが明らかとなり、さらには、EATミトコンドリア機能は冠動脈重症度スコアであるGensiniスコアと有意に負の相関を示していることが示されました。同時にEAT量に関してもCTで術前評価を施行しましたが、EAT量とGensiniスコアとの間には有意な相関関係は示されませんでした。
この結果はEATの質的変化は量的変化よりもより強い冠動脈硬化の危険因子になり得ることを示し、冠動脈硬化の進行に関わる新たな機序の可能性を示唆する興味深いものと考えています。
ポスター発表ではありましたが、興味を持っていただいた先生などから貴重なご意見を頂き、大変有意義な経験ができましたがそれと同時に、自身の英語力のなさ故に適切に解答できないという歯がゆい経験もいたしました。
それでも、本学会で得られた知見を今後の研究活動に役立て、少しでも循環器病学の研究発展に貢献できればと思います。
最後になりますが、本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜りました一般財団法人北海道心臓協会に心より厚く御礼申し上げます。