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第27回日本心エコー図学会学術集会告
手稲渓仁会病院 心臓血管センター循環器内科
佐藤 宏行氏
平成28年4月22〜24日の3日間、第27回日本心エコー図学会学術集会が大阪で開催されました。
本学会は心エコー検査、つまり心臓の超音波検査に関する全国学会で、私の発表内容は、近年高齢者に増加傾向にある大動脈弁狭窄症(AS)に対する、経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI:一般的に“タビ”と呼ばれています)に関するものです。
TAVIは昨今、循環器分野の中で最も注目度の高い新しい治療法であり、本学会中も同様のTAVIに関する発表が多く見受けられ、発表者同志で貴重な意見交換をすることができました。
ASは心臓弁膜症の一つで、毎分4〜5ℓの血液を拍出する左心室から大動脈への入り口となる「大動脈弁」が変性して硬くなり、徐々に狭くなる病気です。健診で偶然心雑音が見つかることもありますが、軽症では症状は認めず、重症になり初めて症状が出てきます。
しかし、症状が出た場合は、失神・胸痛・心不全(呼吸困難、足のむくみなど)が起こり、突然死もありえる重症心疾患の一つです。薬物治療で症状を緩和することはできますが、根治させるには外科治療が必要であり、従来では開胸と人工心肺を用いた心臓手術(大動脈弁置換術)が必要でした。
一方、ASは高齢者に多く、特に85歳以上の場合には外科手術に耐えられないと判断され、治療を受けることができずに亡くなる方が重症ASの3割以上と言われています。手術が不可能な重症ASの自然予後は、切除不能な肺癌とほぼ同等であり、平均2年です。
このように心臓以外は元気だけれど高齢であるがゆえに心臓手術を受けられない患者さんに対する新しい治療として、全身麻酔下に低侵襲的にカテーテルで大動脈弁を植え込む「TAVI」が生まれました。いくつかの方法があり、足の付け根から挿入する方法(経大腿アプローチ)や、左胸に小切開を加えて挿入する方法(経心尖アプローチ)などがあります。
2002年にフランスで初めてTAVIが行われ、以後欧米に普及し、日本には2013年から導入となり、現在、道内では当院を含め計7施設で施行可能です。
当院は2014年春に北海道で初めて、国内では28番目に開始し、2016年8月現在まで50例以上のTAVIを施行し、全員独歩で退院しています。国内施行状況でも外科手術に並ぶ安全性が確認されており、今後もより一層需要が増すことが予想されます。
一方、画期的な治療とはいえ、今回発表した“経心尖アプローチによるTAVI施行1年後に左室心尖部仮性瘤が判明し左室修復術を要した1例”の如く、TAVIに伴う重篤な合併症も稀ながら発症するため、私たちは日々その適応評価や予防対策について、今回のような全国学会を通じて他施設と経験を共有しながら、より良い医療を目指したいと考えています。
当院では重症ASに悩む多くの患者さん一人一人のテーラーメイドの医療を目指すべく、TAVIの適応評価と他の治療法の提案も含めて内科・外科・麻酔科・コメディカルスタッフがそろったハートチーム全体で協議しています。
重症ASと診断されているが手術を受けられない、または手術を受けられるかどうか判断に困る患者さんがいらっしゃいましたら、TAVIを取り扱うStructure Heart Diseases(SHD:構造的心疾患)専門外来を開設しておりますので、ぜひ一度ご相談ください。
最後になりましたが、本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜りました一般財団法人北海道心臓協会に心より厚く御礼申し上げます。