NO.78 |
米国心臓協会年次学術集会
北海道大学大学院医学研究科 循環病態内科学
博士課程大学院生 松本 純一氏
2015年11月7日から11日までの5日間、米国心臓協会(AHA)主催の年次学術集会がフロリダ州オーランドで開催されました。本学会は、100か国以上から2万人近くが参加する欧州心臓学会議(ESC)と並ぶ世界最大級の循環器学会として知られています。基礎から臨床まで循環器のほぼ全ての領域において最新の知見が発表・討論される学会です。
私は本学会で心不全における骨格筋機能障害のメカニズムに関する研究について発表しました。
心不全患者にとって運動能力の低下は生命予後と密接に相関します。以前、私達の研究室から、心不全患者の血液中の脳神経栄養因子(BDNF)低下と、運動能力および生命予後の低下が相関することを報告いたしました。
今回、私は心筋梗塞後心不全モデルマウスを作成し、運動能力低下のメカニズムを研究いたしました。動物用のトレッドミル(電動式のベルトコンベアの上で運動を行ういわゆるウォーキングマシン)を用いて運動能力を測定したところ、心不全患者と同様に運動能力の低下が認められ、また生命維持に必要なエネルギーを産生するミトコンドリア機能の低下を認めました。
本マウスにおいては骨格筋中のBDNFが低下しており、このBDNFと関連してミトコンドリア機能を調節するAMPK、PGC1αというタンパク質が低下していることを証明しました。
この結果は心不全と骨格筋機能異常との関連性を説明する分子機序の一端であり、心不全患者の運動能力および生命予後改善という臨床応用を見据えた研究として極めて有意義な結果と考えています。
当初はポスター発表の予定が、学会の意向により、昨年新設されたeAbstract Sessionにて発表を行うこととなりました。
この発表は広大なポスター会場にブースが設けられ、20人程度の聴衆を前にパワーポイントでスライドでの口頭発表を行います。通常の演台上からの口頭発表とは異なり気軽に参加することができ、演者と聴衆が近い距離で活発に議論が多く行われることを意図して新設されたようです。
私の発表は会期のほぼ最後の方でしたが、多くの聴衆に参加いただきました。当然、英語での発表・質疑応答ですが、質問内容を十分に聞き取ることができず、適切な返答ができなかったことが心残りです。
今回の学会も含め、海外発表する機会が度々ありましたが、自分を含めて日本人の英語力のなさを毎回痛感します。
最後になりましたが、本学会で研鑽する機会を与えていただいた一般財団法人北海道心臓協会に厚く御礼申し上げるとともに、心不全患者の予後改善を目指して引き続き努力する所存です。