NO.75 |
第41回 反応と合成の進歩シンポジウム
北海道医療大学薬学部
創薬化学講座 医薬化学助教
阿部 匠氏
2015年10月26日から27日の2日間にわたり、東大阪市にある近畿大学11月ホール(NOVEMBER HALL)において第41回反応と合成の進歩シンポジウムが開催されました。
この学会は日本薬学会化学系薬学部会が主催し、年に一度の薬学系有機化学者を対象に行われる学術大会です。討論となる主題は「ライフサイエンスを志向した理論、反応及び合成」でした。
すこやかハートの読者の皆様にはあまり馴染みのない学会テーマかも知れません。特別講演も含め口頭・ポスター発表等数多くの演題があり、私にとっては大変向学になる学会となりました。
今年も、複雑な化合物の合成や遷移金属錯体を用いた新反応の開発のみならず、核酸化学の新展開や特定の臓器を対象とした蛍光試薬の開発など数多くの演題が全国から持ち寄せられ、真剣な質疑応答が展開されました。
今回、私は継続研究の「新規合成手法の開発とインドールアルカロイドの全合成」研究の一環として、「スカトールの酸化的二量化反応によるインドロキナゾロンのワンポット合成」という演題で発表を行いました。研究で用いたスカトール(skatole)とは、3-メチルインドールの慣用名で文字のごとく「糞便の成分」です。名前の通り、とても悪臭がします。今回の発表データをそろえるために、日夜「糞便の成分」と格闘しました。帰宅の際の電車の中で、自然と周りに座っていた乗客が離れていってしまうことも一度や二度ではありませんでした。
ごく最近、インドロキナゾリンという含窒素複素環化合物に心筋様細胞への分化促進作用があることが報告されました。心筋細胞自体は再生することができないので万能細胞からの分化により心筋細胞の再生が可能となれば重度な心疾患患者の治療の糸口となります。
これらの結果は、化学物質にまだ不可能を可能にする奇跡の組み合わせが眠っていることを示唆しています。そこで、今回発表した「スカトールの酸化的二量化反応によるインドロキナゾリンのワンポット合成」をさらに検討すれば、心筋様細胞への分化促進剤の迅速なスクリーニングに繋がるものと期待できます。
通常は一つの反応につき一つ以上の反応容器(ポット)を用い化合物を合成します。複数の反応を繰り返すとそれだけポットの数も増えてしまいます。
つまり、効率や迅速性を求めるとポットの数は少ない方がいいということになります。このワンポット反応の検討中に、スカトールからのワンポット反応によるインドロキナゾリンの簡便合成法を見出しました。本法は、これまで報告例がないインドロキナゾリンをワンポットで構築できる効率的な合成手法と思われます。
複雑な骨格を有するために合成が困難なインドロキナゾリン類縁体を簡便に合成できれば、再生医療分野の分化促進剤探索研究における迅速なスクリーニングにつながる可能性があります。この目的を達成するために、有機合成化学者として化学合成を用いた分化促進作用化合物の簡便合成を検討し、微力ながらも力を尽くしていきたいと思います。
末筆になりますがこの度の学会参加にあたり、研究開発調査助成を賜りました一般財団法人北海道心臓協会に心より感謝申し上げます。