NO.66 |
米国心臓協会学術集会
札幌医科大学
循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座 研究生
村瀬 弘通氏
2013年11月16日から20日まで5日間の日程で、米国心臓協会(AHA)主催の年次学術集会(Scientific Sessions)がテキサス州ダラスで開催されました。この学会は循環器に関する最大規模の学会であり、毎年世界中から数多くの医師、研究者が参加しています。期間中は基礎研究、臨床研究ともに数多くのセッションが準備されており、各分野で第一人者である研究者の講演や発表を聞くことができました。
今回、私は自分の研究テーマである、糖尿病ラットを用いた糖尿病による心筋梗塞後予後増悪のメカニズムおよびその治療法に関しての発表の機会を得ることができました。世界的にみて、もちろん我が国においても、糖尿病患者は増加しております。厚生労働省による平成24年の「国民健康・栄養調査」によると、日本の糖尿病患者は約950万人、糖尿病の可能性が否定できない糖尿病予備軍は約1,100万人と推計されています。糖尿病は放置していると網膜症・腎症・神経症といった合併症を引き起こし、進行すると失明・腎不全・下肢切断などの危険性が高まります。また、糖尿病は心筋梗塞などの心血管疾患病の危険因子であり、さらに心筋梗塞後の心不全増悪因子であることも知られています。
本学会で私は、糖尿病ラットでは、心筋梗塞後急性期の死亡率が非糖尿病ラットと比較して有意に高いこと、糖尿病治療薬のひとつであるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬であるエキセナチドを糖尿病ラットに前投与することにより心筋梗塞後の死亡率が改善すること、またそのエキセナチドによる心保護のメカニズムとして心筋でのオートファジー(autophagy、自食作用)促進作用を見出し、糖尿病心筋におけるGLP-1受容体作動薬によるオートファジーを標的にした新たな治療法について報告することができました。会場では同様の研究を行っている多くの先生方から、現在の研究内容に不足している点、今後行っていくべき課題などをご指摘いただき、引き続き研究に励んでいくモチベーションが高まりました。また、基礎研究のみならず、数多くの臨床にかかわる報告もあり、循環器内科臨床医として今後の日常診療を行っていくうえでも大変参考になった学会であったと思います。
さて、ダラスはアメリカ合衆国テキサス州の北部に位置する都市で、アメリカ南部の経済・交通の拠点として発展しました。バスケットボールやアイスホッケーといったスポーツも活発に行われております。学会の行われた2013年11月はケネディ大統領が暗殺されて50年の節目の年でした。学会の合間には博物館の見学をするなど、テキサス・ダラスの文化的なすばらしさに触れることもできました。
末尾になりますが、本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜りました、一般財団法人北海道心臓協会に厚く御礼を申しあげ、結びとさせていただきます。