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第60回アメリカスポーツ医学会 学術集会学会参加報告
北海道社会事業協会
帯広病院 理学療法士
角谷 尚哉氏
2013年5月28日から6月1日までの5日間の日程で、アメリカスポーツ医学会学術集会(ACSM60th Annual Meeting)がアメリカ合衆国インディアナ州インディアナポリスで開催されました。本学会は、世界で最も大きいスポーツ医学・運動科学の団体で、教育活動や臨床応用を目的とした研究の推進に従事しており、毎年開催される学術大会においては、世界的に高名な先生の講演や、最新の研究が多数報告されています。今年は60回目の開催ということで、ACSMの本部が設置されているインディアナポリスでの開催となりました。
私は、本学会にて「トレッドミル歩行における傾斜率が、心臓、下肢の筋肉および膝関節への負担に与える影響」というテーマでポスター発表を行って参りました。本研究は、上り坂と下り坂を歩いた際に、平地歩行と比較して身体にどのような負担が生じるのかを、心臓への負担、下肢の筋活動、膝関節への負担(踵接地時に生じる膝関節の側方方向の加速度)の3つの視点から明らかにしたものです。上り坂を歩くと心臓への負担と下肢の筋活動は大きくなり、膝関節への負担は平地歩行と比較して減少する傾向を示しました。一方で、下り坂を歩くと心臓への負担は減少し、下肢の筋活動と膝関節への負担は大きくなりました。つまり、心機能が低下している方にとって下り坂を歩くことは、心臓には優しく、且つ下肢の筋肉を鍛える良い運動になる可能性があるということです。しかし、下り坂での歩行は膝関節への負担が大きくなるため、膝が痛い方は注意しなければいけません。
このように、私の研究の新規性は、運動を多角的な視点から観察している点にあります。現在、心臓を専門とする研究者による心臓に関する研究や、筋肉を専門とする研究者による筋肉の研究が多く行われています。もちろん大切なことですが、私は一つの研究で心臓、筋肉、関節に着目していないことに疑問を感じました。人が運動するには、心臓が血液を筋肉に送り、筋肉が関節を動かすといったように、各器官が連動して働く必要があるからです。
ポスター発表の質疑応答では、各測定項目に対する考察が浅いという指摘も受けましたが、今までにない視点で運動を観察しているという意見も頂きました。世界各国から集まった研究者を前に不慣れな英語で討論をした経験は、今後の大きな糧となると確信しております。運動を専門に扱う理学療法士として、皆様に役立つ報告ができるよう、今後も臨床業務や研究活動に励んで参ります。
最後に、本学会への参加にあたり研究開発助成を賜りました財団法人北海道心臓協会に心より厚く御礼申し上げます。