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第67回日本体力医学会 大会参加報告
北海道大学大学院 医学研究科
循環病態内科学講座 博士課程
門口 智泰氏
第67回日本体力医学会大会は、9月14日から16日の3日間の日程で、岐阜県の長良川国際会議場および岐阜都ホテルで開催されました。本学会は毎年、国民体育大会の開催都市で開催されている歴史あるスポーツ医科学系の全国学会です。今年は、例年以上に基礎研究および臨床研究の発表が活発化しており、基礎研究においては、特に分子メカニズムに迫った興味深い研究が多かった印象を受けました。
さて、私は本学会にて「クルクミンはタンパク分解を抑制して糖尿病誘発性骨格筋萎縮を軽減する」という内容について研究発表をさせていただきました。1型糖尿病マウスでは体重、骨格筋重量ともに著明な低下がみられますが、クルクミンを混ぜた餌を与えた1型糖尿病マウスでは、それらの低下が抑制されました。骨格筋萎縮を促進する代表的な因子として、骨格筋特異的ユビキチンリガーゼ(タンパク分解因子)であるMuscle Ring Finger-1、MuscleAtrophy F-boxの2つがありますが、それらの発現が骨格筋組織内にて著明に亢進しており、さらにそれらと関連するユビキチン結合タンパク発現も亢進していました。これらも同様に、クルクミンによって抑制されました。
これらのことから、クルクミンが主に骨格筋ユビキチンリガーゼなどのユビキチン−プロテオソーム系の亢進を抑制することで、糖尿病に伴う骨格筋萎縮を抑制する可能性を示しました。
骨格筋萎縮には、本研究で用いた糖尿病誘発性ものに加え、身体不活動、加齢性筋委縮(サルコペニア)および心不全に伴うカヘキシアなどがあります。骨格筋量減少に伴いQOL(生活の質)低下、さらには生存率低下が誘発されますが、特に心不全患者においてはそれが顕著であることがわかっています。骨格筋萎縮の作用機序は必ずしも一致しておりませんが、ユビキチン−プロテオソーム系を初めとしたタンパク分解因子の亢進が他の病態下においてもみられることから、クルクミンが動物モデルのみならず疾患者の骨格筋萎縮を低減し、QOLの向上、さらには生存率を改善させる可能性が示唆されます。
質疑応答では、多くの先生方から興味深いご質問やご助言等をいただき、今後の研究遂行にあたり大変貴重なものとなりました。本学会で得られた知見を今後の研究活動に役立て、少しでも医学・健康科学分野の研究発展に貢献できればと思います。
最後に、本学会参加にあたり研究開発調査助成を賜りました財団法人北海道心臓協会に心より厚く御礼申し上げます。