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第61回米国心臓病学会 学術集会参加報告
札幌医科大学臨床大学院
地域医療人間総合医学専攻 循環腎機能病態学
小山 雅之氏
2012年3月24日から27日までの4日間の日程で第61回米国心臓病学会学術集会(ACC.12)がアメリカ合衆国イリノイ州シカゴで開催されました。本学会は世界各国の循環器専門医が一堂に会する、AHAやESCと並ぶ世界最大級の循環器学会として知られています。
昨年度は視察を兼ねて(演題も無いのに)参加をし、今年度はそれを踏まえて、ポスターセッションではありましたが演題を通して、胸を張って参加して参りました。
私は循環器病の中では稀な疾患ではありますが、『肺高血圧症』をテーマに臨床・研究に取り組んでおります。皆さんに広く知られている一般的な『高血圧』は、厚生労働省の平成18年国民健康・栄養の調査の概要を参照すれば、「高血圧有病者」で約3970万人、「正常高値血圧者」約1520万人、両者を合わせると合計で約5490万人(全体は1億4000万人)にものぼるとされております。私の扱う『肺高血圧症』と枕詞に『肺』がつきますと、日本全国でおよそ1万人程度しか患者さんがいらっしゃらない非常に稀な疾患で、以前は診断をされてからの平均余命が約2.8年と極めて難治性の疾患でした(原発性肺高血圧症、現在の特発性肺動脈性肺高血圧症)。2000年頃からの基礎的な病態生理の解明や新規薬剤の登場により、5年生存率も諸施設によりデータは異なりますが85%程度まで改善してきていて、非常にマニアックな中に属しておりますが、基礎から臨床までここ10年間hotな分野となってきております。
昨年来、肺高血圧症の基礎研究に日々勤しんでおりますが、今回は基礎研究ではなく、大学で臨床を行っているときにまとめたデータベースを使って、稀な疾患のさらに稀な病態である、『Combined Pulmonary Fibrosis and Emphysema:CPFE』という疾患群についての臨床疫学的な発表を行って参りました。CPFEは、胸部CT上で肺気腫と間質性肺炎を合併した群と定義され、これらの中には高率に肺高血圧症が合併します(Cottin V. et al. Eur.Respir.J. 2005)。呼吸器内科と協力し、私たちの施設での間質性肺炎の患者さんを連続で100例以上、後ろ向きに追跡し、心電図・経胸壁心エコー・血液・生化学的データ、予後などについて検討を行いました。私たちの施設での解析でも、肺高血圧症の頻度は多く、生命予後は間質性肺炎単独の方より不良で、かつ心電図の指標で予後不良となる群を推測することができました。心電図や心エコー、CTといった、からだに負担のかからない、非侵襲的な検査を用いることで、予後不良な群がわかるとすれば、薬物治療を早期から検討することや、正確な診断のために侵襲的な検査(カテーテル)を積極的に行って、よりその人に適切な治療法を選択することができるようになります。その一助になるようなひとつの研究となればとの思いで、データをまとめましたが、当日発表の際には座長の先生から自分では気付かなかったような質問をいただいたり、しかしながら、緒言として非常に興味深い研究だと言っていただいたり、厳しさの中にも、励みになるひとときを過ごすことができました。今後また新たな気持ちで、研究や日々の診療に邁進したいという気持ちになりました。
末尾になりますが、本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜りました、財団法人北海道心臓協会に厚く御礼を申しあげ、結びとさせていただきます。