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第10回心筋会に参加して
北海道大学大学院 保健科学院
大学院生 岡田 一範氏
平成24年2月18日、東京で第10回心筋会が開催されました。心筋会は、関東近隣で主に心エコー法に携わる循環器内科の先生方が中心となって開催されている研究会で、心筋の三次元的な動態の解析から心疾患の病態生理を探求することを目的としています。他の学会や研究会などに比べ、一つの演題に対する発表・討論時間が長く設定されており、充実した議論が交わされるのが特長です。
その中で私は「肥大型心筋症における心筋層別の長軸・円周方向心筋短縮の相互関係と駆出率保持の機序」というテーマで発表させていただきました。
肥大型心筋症は、高血圧や心臓弁膜症などの明らかな原因なしに、心臓の筋肉(心筋)が異常に肥大する疾患です。本症の診断や、収縮・拡張機能などの病態評価において、心エコー法は重要な役割を果たしています。一般的には、肥大型心筋症の収縮機能は正常に比べて保たれているか、むしろ亢進していると言われています。
しかし、病理学的には心筋肥大の他、心筋の線維化などの退行性病変もみられることがわかっており、心筋本来の短縮は低下している可能性があります。
従来、左室の収縮機能は左室駆出率などの心内膜の動きを表す指標が用いられてきましたが、近年、通常の心エコー法で得られた動画を、二次元スペックルトラッキング法という新しい手法で解析することで、様々な方向への心筋の伸び縮みの度合い(ストレイン)を計測できるようになりました。
さらに最近では、心筋の内側・中層・外側の各層でストレインを計測できるようになりましたが、肥大型心筋症において、心筋各層のストレインの有する臨床的意義は十分検討されていませんでした。
今回の発表では、中層と外側のストレインは長軸方向・円周方向ともに低下しており、肥大型心筋症の心筋本来の短縮は低下していると考えられること、また、内側のストレインは長軸方向では低下していたものの、円周方向では保たれていたことから、心筋肥大による相対的壁厚増大により、内側の円周方向短縮は正常に保たれ、そのことが左室駆出率の保持と関係すると考えられることを報告しました。
本研究の結果から、心筋層別にストレインを計測することにより、肥大型心筋症における心筋収縮異常の早期発見と、より正確な病態評価が可能となることが期待されます。
当日は20分の討論時間をいただきました。全国レベルの研究に従事されるこの分野の専門の先生方と多くのディスカッションをさせていただくとともに、貴重なコメントも多くいただくことができ、今後研究を進める上で大変参考になりました。他の先生方の発表やディスカッションの内容も非常に濃密で、大変勉強になりました。
心エコー法は、患者さんへの負担が少なく、かつ多くの情報をリアルタイムに得られる、とても優しい検査です。今後も、心エコー検査でより多くの患者さんに役立つ情報を得られるよう、微力ながら力を尽くしていきたいと思います。
最後に、この度の研究会への参加にあたり、研究開発調査助成を賜りました財団法人北海道心臓協会に心より感謝申し上げます。