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アメリカ心臓協会学術集会に参加して
北海道大学大学院 循環病態内科
大学院生 福島 新氏
2011年11月12日から16日までの5日間の日程でアメリカ心臓協会年次学術集会がアメリカ合衆国フロリダ州オーランドで開催されました。本学会は100カ国・地域から3万人近くが参加する世界最大の循環器学会で4,000以上の一般演題の他、数多くのセミナー、プレナリーセッション、大規模臨床試験報告、記念講演など多彩なプログラムが用意されており、循環器内科医としては一度は参加してみたいと思える学会です。
プログラムは「Cores」と呼ばれる7種類の異なるテーマで構成され、各セッションはそのテーマ毎に細分化されており、それぞれの分野で最先端の報告が同時に行われるダイナミックな会でした。数多くのプログラムから自分の興味のある分野を検索するだけでも一苦労ですが、今回の学会ではiPadやiPhoneといった電子端末用のプログラム閲覧、検索システムが稼働しており、大変役に立ちました。
私は今回、心筋梗塞後心不全モデルにおけるインスリン抵抗性と直接的レニン阻害薬の効果に関する研究について口述発表させて頂きました。糖尿病やインスリン抵抗性は動脈硬化に起因する虚血性心疾患ばかりでなく、直接心筋の構築・機能変化(リモデリング)を引き起こし、心不全の原因となります。さらに心不全発症自体によってインスリン抵抗性が惹起されることが大規模臨床試験で明らかにされていますが、その背景となる分子機序および治療法についてはまだ知られていません。
本研究では、動物で心筋梗塞後心不全モデルを作製しインスリン抵抗性が惹起されることを確認し、さらには心不全で惹起される全身のレニンアンジオテンシン系を抑制する薬剤、レニン阻害薬がインスリン抵抗性をも改善させることを示しました。これらには骨格筋でのインスリンシグナルの改善や骨格筋酸化ストレスの抑制が関わっていました。
この結果は上述した心不全とインスリン抵抗性との関連性を説明し得る分子機序の一端であり、実臨床で使用されている薬剤で治療可能であったことは、臨床応用を見据えた研究として極めて有意義な結果と考えています。
今回、研究内容を英語で発表する機会を得ましたが、苦労した分大変勉強になりました。発表のみならず、発表後に行われる討論では世界各国から様々な人種、多種多様の分野の研究者から質問を受けます。質問の内容もさることながら、英語自体のイントネーションも様々で聞き取りにくい場合もありました。特に日本人は自分も含め、他の諸外国の研究者と比較してその点は苦労しているように見えました。やはりこのような国際学会では英語を用いて討論する能力が非常に重要であることを改めて痛感させられました。
さて、学術集会の開催されたオーランド市は数々のテーマパークやホテル、ショッピングセンターなどが林立するリゾートタウンです。学会への参加の合間には近隣のケネディ宇宙センターにも足を運びました。スペースシャトルといった大規模な物体を宇宙に飛ばすアメリカのスケールの大きさに感動しましたが、一方で現在はシャトル計画は終了し、観光目的として残されている発射台にはどことなく大国としての斜陽を感じました。
今回の学会参加で研究への新たな活力が湧きました。貴重な経験・知見を今後の研究や診療に役立て、少しでも医学および医療の発展に貢献できればと思います。
最後になりましたが、本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜りました財団法人北海道心臓協会に厚く御礼申し上げます。
北大から参加したメンバー。上段左から高橋先生、高田先生、筒井教授、 野澤先生、本間先生、絹川先生、下段左から徳原先生、福島氏、菅先生