NO.50 |
第65回 日本体力医学会参加報告
北海道大学大学院医学研究科循環病態内科学
博士課程大学院生 高田 真吾
平成22年9月16日から3日間、千葉県の千葉商科大学、和洋女子大学にて、第65回日本体力医学会が開催されました。本学会では「体力科学・健康医科学」に関して基礎・臨床の立場より最新の知見から今後の展望に至るまで広く発表・討論が行われました。
今回は幸いにも全日参加する機会を与えて頂き、様々な知見や経験が出来ましたので報告させていただきます。さて、今回私は「血流制限下レジスタンス運動中に生じる筋内代謝ストレスと筋肥大・筋力増加」について発表させていただきました。骨格筋量や筋力の低下は、糖尿病の発症や心血管疾患リスクの増大、さらには心不全患者においても予後の強力な予測因子であります。レジスタンス運動は、筋量および筋力を増加するのに最も有効な運動療法であるが、有効なトレーニング効果を得るためには高強度負荷が必須となり、高齢者や慢性心疾患患者においては、筋骨格系への負担や心血管系への負荷が大きく、筋・関節の損傷や心血管事故のリスクを増大することが懸念され、このような制限が臨床応用の支障となっています。
最近、低強度レジスタンス運動に血流制限を併用したトレーニング法(以下 血流制限下レジスタンス運動)が、高強度レジスタンス運動と同等のトレーニング効果を獲得できることが報告され、高齢者や慢性心疾患患者の新たな運動療法として期待されています。一方、我々は、血流制限下レジスタンス運動における劇的なトレーニング効果を説明する機序として骨格筋内代謝ストレス(筋収縮に伴う代謝産物蓄積)が関与していると仮説を立て、これまでに運動中に骨格筋内代謝ストレスが著明に増大することを明らかにしてきましたが、直接的な関与の証拠は得られていませんでした。
本研究は、4週間にわたって血流制限下レジスタンス運動を介入し、運動中に生じる骨格筋内代謝ストレスがトレーニングによる筋量および筋力の増加と密接に関連することを明らかにしました。これらにより、
(1)レジスタンス運動中の骨格筋内代謝ストレスは良好なトレーニング効果と密接に関連していること、
(2)効果的な運動療法の確立に向けて骨格筋内代謝ストレスに基づく運動処方作成や効果予測、さらには新たな運動療法の創出により、心不全をはじめとする心血管疾患における運動能力の改善が期待されること、
が示唆されました。
発表中は、幾人かの先生方から御助言等をいただき、これからの研究遂行にあたり大変貴重なものとなりました。この学会で得られた知見を今後の研究および予防・リハビリテーションにおける運動療法の発展に貢献できればと思っております。また、他の報告にも現在進行中である研究と同様に、今回発表させて頂いたテーマとは別の観点からのアプローチ、さらに詳細なメカニズムの一端に触れるものまで今後の自分の研究を発展させるにあたり参考になる研究が多数あり、大変貴重な見聞が得られました。
最後になりますが、本学会への参加にあたり研究開発調査助成を賜りました財団法人北海道心臓協会に心より厚く御礼申し上げます。